Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.4.25

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎」
その11
芝 松南

『忠魂義胆 武道の誉』精華堂 1910 所収

◇禁転載◇

大塩平八郎(下)功名栄利誰論ぜん (6)管理人註
   

        (三) 詞『明れば二月十九日でございまして、此の日は毎年洗心洞に祀てあり        おまつり  ます、孔子の祭日でございますから、早朝から集つて来る門弟が数百  人、平八郎は此の時、殊更に威儀厳然として、沈痛なる句調を以て、  昨夜の出来事を述べまして、直ちに事を挙げんと宣言しした、スルト      だまつてきいて                     初めから沈思黙考ゐた一人の門弟、ツカ/\と平八郎の前へ進まして、            つねから   おちつき      ぼうこ へうか 門『先生、此度の御企は平生の御沈着にも似合ず、暴虎馮河の御軽挙か  と存じまする、青二才の拙者どもが申し上るまでもないこと、大義の    いづ  道は孰れにござりまするか、名分の弁解は。 節『なんとなされまする御所存か、常に聖賢の道を説き、仁義の教へ浅  からぬ御身を以て此の度の「御企は、何事でござる」山より高く海よ  りも、深き御恩を受けながら。  誰れ一人として御諫言申上るものもござらぬか、恐れながら聖賢の道  にも欠けたる今度の一件、先生のために採らざる所。                    節『時に取つては馬骨も千金の値あり、況して千金万金に、代られ難き  御身ではござらぬか。     おんあやまち  一朝の御過誤は万世までも、御高徳を汚す次第かと存じますれば、篤  と御熟慮下され、無謀の御軽挙は御中止相成るやう、お諫め申します  る。                         かま 詞『平八郎は木像の如うになつて聞いて居る、それにも関はず、再三再  四死を以て諫むる人は、これぞ宇津木矩之允と云ふ厳正剛直を以て聞  ゆる大塩門下の俊才、けれど平八郎の決心を翻すことが出来なかつた。       宇『先生、最う此の上は御諫言申し上げませぬ、只今迄の過言は御許し  下されよ……。 節『ひきて返らぬ梓弓、矢竹心の一すぢに、思ひつめたる熱涙の、思は                              ず落す一雫、いくその思かこもるらむ、大塩聞いて、アゝ好う云ふて  くれたそちの諫言あだには受けぬ、我れも夫れ知らぬではないが、已                  はゞかり  に止れぬ大和魂「矩之允は立つて便所へ往く」その跡見送る平八郎。

   


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