Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.4.17

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎」
その3
芝 松南

『忠魂義胆 武道の誉』精華堂 1910 所収

◇禁転載◇

大塩平八郎(上)情けの光 恵みの露 (3)管理人註
   

○『オヤ、大塩氏が菓子函を持ち出したぞ。 △『成る程、我々へ茶菓子でも御馳走する了簡ではござるまいか。       ○『左様、彼れの事だから何んとも変ではござらぬか。 △『ナニ矢張御馳走する気でござろう、彼れも中々の苦労人でござるか  らの。              う か ○『イヤ然うでもあろうが、放心と手出しはなりませぬぞ。                  あ ん △『仰せの通りじや、彼れが役所へ彼様な物を持参するとはチト怪しふ  ござるての。   いづ ○『何れに致せなんとも心得ぬ振舞でござる。             きやつ △『左様々々此れを幸ひ、彼奴が日頃の慢心を懲さねば溜飲が下らぬて。                             い か ○『溜飲どころではござらぬ、高井殿を笠に着て、行く/\如何に増長  するか知れ申さぬ。                    こぶ △『イカにも彼奴に増長されては目の上の瘤でござる。                                 ○『御尤でござる、え…… 何んとか申すではござらぬか、ね…… 然  うぢや、二葉にして刈ずんば遂に斧とやら、彼奴に頭を上られては、  我々の不利益でござる。     くだ           さいぎ 節『と、管を以て天を窺ふ小人が、猜忌の雨に嫉妬の風、口に極めてあ  ざけりの。 ○『大塩氏、この菓子函はイカになされたのぢや、何事にも御発明の其          こ ゝ   かやう       よしあし  許であるから、役所に斯様の物を持参する良否は我々が申さずとも御  承知でござろう。                 そこもと △『御同役の仰せの如く、御発明の其許が役所へ持参なさるは…… ハ  ハア、判つた我々を安く見くびりたる仕方、謂はゞ侮辱なさるでござ  ろう。 △『左様々々、大塩氏の心底相見えた、斯様な汚らはしいものは、我々  見るも心地が悪い。                             かたち 節『と云ひながら起ち上り、今や足蹴にかけんとする間一髪、容儀を改  めハツタと睨み。   おの/\             しづまり        わきま 平『各々方、何となさる…… 先づに鎮静下さい。左程の事弁へぬ大塩  平八郎ではござらぬ、此の品は各々方へ献ずるものではない。 ○『ナント……。            いだ 平『只だお目通りに持ち出したまで。 ○『エツ……。 平『イヤ、左様にお騒ぎなさるな。 節『物言へば唇寒し秋の風。 平『ハゝゝゝ、各々方には此の菓子函を何んと見られた、斯様な菓子は  不肖の平八郎初めて拝見致し、あまりの珍らしさに持参いたした。                    節『ハツト驚く一同の、顔色ながめて蓋去れば、菓子にはあらで山吹の、 花の実もある大判小判、いよ/\一同驚いた。 平『何んと珍らしい菓子でござろうがの「エツ」イヤさ各々方にも初め  ての筈。 節『ヂロリツト見廻す眼の光、一同顔色蒼醒て、脇の下から汗ピツシヨ  リ。 平『ぢやが此の菓子の味はひ御承知とあらば容易ならざる次第。                まなこ くら         みだ      あやふ 節『モシも天下の役人が、これに眼の眩む時、政道紊れて人心殆く、禍  危之より生ぜん、されば八重山吹の一重だに、人のゆるさぬ枝折るな、  花こそものは云はねども、げに楊震が四知の戒、壁にに耳ある世の中  ぢや。 詞『之れから日一日と役所の風紀も改まつて、平八郎を恐るゝこと雷の  如く賄賂沙汰など全くなくなつて了つたが。

四知
どんなに秘密
にしていても
いつかは他に
漏れるという
こと




 


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