(一)
節『あまるは足らぬを補ひて、救ふぞ人のつとめなる、あはれむべきを
憐みて、世を益するは人のみち、流石は大塩平八郎、年頃日頃蓄へし、
しよもつ
多くの書籍が売り払ひ、或は十両二十両、塵にはあらぬ金銀の、其高
積つて一万両。
あいわたし
詞『半紙を四つに切つて施行札の切符を造りまして「相渡」の二字を楷
ほ お
書に刻つて黒印を捺して。
たかね
近年打続米穀高直に付、困窮の人多く有之由にて当時御隠退大塩平
八郎先生、御一分を以て御所持の書籍類残らず御売払なされ其代金
を以て困窮の家一軒前に付金壱朱づゝ、洩れなく都合家数一万軒へ
御施行有之候間此書付御持参にて左の名前の所へ早々御申請に御越
なさるべくそろ
し可被成候
但シ酉二月八日安堂寺町御堂すじ南へ入東側本会所へ七ツ時迄に
御越しなさるべく候。
河内屋 喜兵衛
同 新治郎
同 記一兵衛
同 茂兵衛
く ば
と書いた刷物を配布つたから、イヤもう大変な人気、寄るとさわると
神か仏のやうな評判でございます、その評判を聞いた幕府の役人は眉
ひそ
を顰めて恐れを抱いた、或る日のこと平八郎は門弟を講堂に集めまし
て。
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