おの/\
大『各々方も既に御承知の通り。
節『行かふ袖にすがりつゝ、なくねもほそき人々の、餓たるさまを見る
みだ
につけ、心も紊れ目もくれて、なをも思ひがまさるかな、我は信ずる
道をとり、仁をなすため身を殺し、頑冥非道の奴輩に、一撃加へて窮
民を、助け遣す決心と、語るも涙の玉霰。
大『然し我を以て人に強ることは出来ぬ、必ずともに死生を一になされ
いとは申さぬ。
はらわた
節『御意見あらば遠慮なく、語れよ聞かんと大塩が、慷慨悲憤、腸を絞
る熱血の、声の下より門弟の、庄司儀左衛門進み出で。
よにん お し へ
庄『他人はイザ知らず、日頃先生の御恩を受け、厚い御教訓を守る某は、
何処までも先生と倶に一身を犠牲に供しまする覚悟でござります、一
同の方々とて恐らく御異存はあるまいかと存じまする。
△『庄司氏の仰せられる通り、我々は先生のためには一死何ぞ辞せん、
しよもつ
常々御大切に遊ばす書籍までも売払つて窮民をお救ひなさる思召しを
目撃しながら、此儘引き下る腰抜ではござらぬ。
たを やみ
節『左様ぢや/\と一同が、異口同音に叫びたて、斃れて後ちに已なん
ぐわぜん さんてんいちだ
と瓦全を耻る義者勇者、之れぞ山巓一朶の黒雲が、風を起すか雨なる
か、将に是れ雨来らんとして風楼に満つ。
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