あ を こ
節『見る/\顔色蒼白さめて、這は容易ならぬ一大事。
詞『早速人を遣つて当夜の宿直を調べさせると、洗心洞屈指の勇者、瀬
田済之助に小泉淵次郎と云ふことが判つた、いよ/\驚いて、先づ奉
ふたり つかま
行所に宿直する此の両人を捕縛つて置かねば、如何なる騒動が起るか
とりて
も知れぬ、山城守は腹心の捕吏に、
ふたり
山『彼等両人は大切なる捕物であるから、若し手に余れば殺すも苦しう
ないが、取逃しては一大事であるぞ。
いひつけ
詞『と命令まして二十人の同勢を向はする。
節『虫が知らすか両人とも、寝てもトツキリ寝つかれず、身体ビツシヨ
リ汗かいて。不図眼を醒す丑満頃。
済『小泉氏。
小『何んでござる。
ありさま たゞごと
済『イヤ、今夜に限つての胸騒と云ひ、俄に騒々敷形勢、徒事ではある
まい。
小『左様、拙者も最前からの胸騒。
節『コリヤ我身に取りて凶事なるか、それとも天満川崎の、大塩先生の
身に取りて凶事なるか。
ようす きい さぐり
詞『兎も角く動静を探らせよう、と心利たる同心を探偵に出す、間もな
く帰つて来て。
○『御奉行様へ直々に密訴するものがあつたと申す事でござります。
済『何ツ、密訴…… ハーテ何者であろう。
よ し ふたり
小『仮令直々の密訴にいたせ、第一宿直する我々両人に御沙汰もないは
第一の不審。
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