Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.11.15

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『民本主義の犠牲者大塩平八郎』

その23

相馬由也

開発社 1919

◇禁転載◇

四、悪貨幣の濫造 (2) 管理人註
   

         こつかう  ところが斯ういふ骨の臣が前後或は死し、或は勢を失つた後の政治      しかい は次第に弛解する一方で、水野忠成が老中となつた翌文政元年の暮の財             ありきん 計を見るに、幕府の此暮の有金高は、六十五万八百六十余両に過ぎぬと いふ有様になり、翌年一切の支出を弁ずるにも足らぬ。之を寛政の有金 に比すると四十二万八千九百余両を減じて居る。是は勘定奉行服部伊賀 守、古川山城守両人の報告だから確実である。唯思慮も無く贅沢をして 来たが、限有る財源には必ず枯渇が来る。行き当りバツタリのやり方だ                             そもそ から、愈よ行き当つて見ると、さあ策の出づる所が無く、是が抑も小才 子水野忠成の愈よ時めく序幕となるので、彼は此救済策として貨幣改鋳 の議を進めた。智慧の無い有司等は地獄に仏を得た心地、早速それが宜 からうと評議が一決に及んで、是より忠成が勝手掛となり、思ふ儘に幕 府の財政を切廻したのである。何しろ譬へば十の価の有る貨幣を取上げ て半分以上の混ぜ者をし、五以下の価ほかない貨幣を造り出して之を天 下に行ふといふのだから、素人考へには旨い話、一朱が二朱三朱にもな り、一両が二両三両以上にもなる。一寸妙計と想はれもしやう。けれど                   も、一般国民は盲目でない、否其道に長けた商人の眼は、言ふ迄も無く 分秒の末をも比較する程に肥えたものであるから、一片の御触書位の事 で、それ丈の価無きものをそれ丈に遣はす事の出来る筈がない。法制禁 令の力は其民間貯蔵の旧貨幣の回収位を為し得るとしても、最早や物資 を従来の率を以てそれと交換させる事は出来ぬ。即ち貨幣の価が安くな つたのである。物資の方からいへば物資の価が高くなり行くのである。 茲に一般国民の生活の不安が襲来するのだが、彼れ忠成等は之を知りし や否や、否それは如何でも宜しい、唯将軍之を知らず、左右の老臣等も             はゞ 亦之を知らず、知るも之を沮みさへする者がなければ宜しいのである。




魚の骨がのどに
つかえること


有金高
金銭の現在高











『民本主義の犠牲者大塩平八郎』目次/その22/その24

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ