Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.10.17

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「大塩の乱関係論文集」目次


『民本主義の犠牲者大塩平八郎』

その5

相馬由也

開発社 1919

◇禁転載◇

一、平八郎の生立 (1) 管理人註
   

 ろーま  羅馬のシーザーでも、英吉利のクロムウエルでも、前者は死して約二               なんな 千年、後者は死して約三百年に垂んとするが、共に天下の公論未だ定ま らずといふけれども、公論の定まらぬもの豈独り此等二人みに止まらん        さと や、君子は義に喩り、小人は利に喩る。人々各々自己の胸中の寸尺を以 て他人の長短を測るのだから是非もない。大塩平八郎の如きも矢張り其 たぐひ       お 類だ。毀誉は棺を葢うて後に定まるなどゝいふ事は当にならぬ、平八郎 は棺を葢うて八十年に余り、最早や程無く百年にもならうとするに、其 毀誉の益々紛々たるのみならず、其伝記迄も異説百端帰一する所が無い。            いよい これでは其毀誉も従つて愈よ紛糾するばかりである。或る者は彼の悲憤                しゆんれい なる最後を以て、彼の驕慢にして峻獅ネ天性に出づるといふが、其天性   を矯めるものは教育でないか、そこで又彼の悲惨なる最後をば彼の奉じ た陽明学の罪に帰する者もあるが、人間は学問ばかりで動く者でない。                      ここ 人間の動くのは其境遇に駆られる者でないか、是に於て又彼の悲惨なる 最後をば当時の悪政に刺戟されたものだといふ者がある。併し乍ら、虎 よりも暴なる苛政の下には、何人も皆平八郎たるかといへば左様でなく、          かす 我住む屋根裏にだけ幽かな反抗的の声を洩しても、一歩門を出づれば柔              た        ひ 順なる事羊の如く、沈香も焚かず屁も放らず、御多分様に従つて動く者 の方が多い。すれば平八郎をして平八郎たらしめたものは、当然此境遇 の外に、天性もあれば其教育の力もあらねばならぬ。天性は即ち遺伝に 得たもので、御互の人格なるものは本来此遺伝と教育と境遇とによつて 作り上げられ、そして此人格が更に境遇に順応して働くものであるから、                      いづ 平八郎の人物を批判するにも、固より此三点の孰れをも見逃してはなら ぬ。

 


『民本主義の犠牲者大塩平八郎』目次/その4/その6

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