Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.9.4

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩中斎空虚の哲理』

その13

高田集蔵

立正屋書房 1925

◇禁転載◇

二 哲学的思索
 (其二)(2)
管理人註
   

 『赤心』と云ひて人間の無私なる誠心を赤き心とするのはやはり血液 の色に取つたものでありませう。この『赤』亦空虚の義であることは 『赤手空拳』とか、『赤貧洗ふが如し』なぞと云ふ熟語の示す通りであ ります。実に心臓の作用は太陽系に於ける太陽に比すべきものでありま して、空虚の性よく全身混濁の血を集めて之を肺臓に送つて清新なるも のとして、再び身内各器官に与へてゐます。即ち暗赤色の静脉血が、静 脉及び心臓の右前房を経て右心室に入り、それから肺動脉、肺毛細管及 び肺静脉を経て左前房に入り、遂に左心室に還つたときは、もう鮮紅な る動脉血となつて、大動脉及び全身動脉を経て毛細管に流入し、循環周 流瞬時も止むことなくして、或は各器官の間に行はるゝ物質の交換を媒 介し、諸器官に栄養物質や酸素を輸送したり、代謝産物を排除したりな ぞの大使命を行ふのであります。私は曾て血脉の営々たるこの働きを、 易の坎卦によつて説明したことがありますが、今にして思へば、血液は 単なる水ではありません。酒や油と同じく血は水の陰に火の陽を兼ぬる ものであります。若し夫れ心臓を身内の太陽に擬するならば、血液は一 面太陽の放散する光熱に喩ふへぼきものでありませう。さきに太陽系全 体の旋回運動の秘密は、中心たる太陽の有する空虚なりと申し上げまし たとき、私はそれがあまりの独断説として耳を蔽はるゝ虞れなきやを竊 に気遣つてゐましたが、今そのアナロジーとして、心臓、空心に本づく 収縮(Systole)と舒張(Diastole)の両作用が能く全身血液運動の源と なつてゐるの事実を挙げて御参考に供したいと存じます。詳しく申上げ ますと、心臓の心室がリズミカルに収縮する為めに、血液が大動脉や肺 動脉に流れ込み、その部分の血圧を亢進せしめます。それから心室が舒 張するとき、前房や静脉から血脉を受容するのですが、それは所謂心臓 の弁膜移動によつて、流出血液の環流を防ぎ、その刹那心室が真空とな るからであります。  かく血液運動の原因たる血圧は、心臓の縮張から生じるのであります が、しかも大動脉から動脉、毛細管、静脉を経て再心臓に達する通路に 於て、血圧は次第に減退して行くので、血液は何うしてもその方向に流 れずにゐられないのであります。

























坎卦
(かんけ)
坎は八卦の
ひとつ










Systole
心臓収縮

Diastole
心臓弛緩


『大塩中斎空虚の哲理』目次/その12/その14

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