Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.9.11

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩中斎空虚の哲理』

その20

高田集蔵

立正屋書房 1925

◇禁転載◇

三、宗教的修練
 (其一)(3)
管理人註
   

 英雄に就いてもチヨイ/\説かれて居りますが、世俗に持て囃される 英雄にはそれほどの価値が認められて居りません。カーライルは別の意 味で歴史は英雄の伝記なりと申しましたが、歴史上赫々の栄誉を荷ふて ゐる英雄の事功と雖も、中斎先生は一概に之を褒讃せず、寧ろその心術 の上に鋭い批評的眼光を投げられてゐるやうです。即ち野心情慾から做 し来つたところのものであらば、いかに驚天動地の大勧業と雖も畢竟す るに夢中の伎倆に過ぎない。夢の是非を評する如きは明道の君子の為す を潔しとせざるところで、これが周子、程子、陽明先生等の、史論に及 ぶこと稀なりし所以であると判じて居られます。  天下の英雄をば、それほど問題にせられなかつた中斎先生は、嬰孩赤 子に対しては深い注意を払はれたやうに思はれます。嬰児の心は聖人の 虚に近く、知好行楽が合一して少しも欺くところの無いのを喜はれたの でありませう。それで大虚に帰せんと志す求道の君子にして、聖人の心 はあまり高くして攀づべからざるを感ずるならば、宜しく嬰児を見て、 その心の謙虚なるさまに学ぶべきであると私は考へるのであります。耶 蘇も及門の弟子に対し、  「汝ら謙りて嬰児の如くならずば、必ず天国に入ること能はず」 と曰ひました。聖人たらんと欲する者は、先づ学んで嬰児の心を得ねば なりません。例によりて老子から聖人の至徳正に天真爛漫たる嬰児に似 たるを見ませうか。


カーライル
Thomas Carlyle
1795〜1881
英国の評論家
歴史家

赫々
(かくかく)
功名・声望な
どが立派で目
立つさま

(な)し









嬰孩
(えいがい)
赤ん坊





(よ)づ




及門
(きゅうもん)
門人

(へりくだ)り


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