Я[大塩の乱 資料館]Я
2012.9.21

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩中斎空虚の哲理』

その29

高田集蔵

立正屋書房 1925

◇禁転載◇

三、宗教的修練
 (其三)(3)
管理人註
   

 これら奇矯の語を放つた老子は、たしかに普通常人の見て居らぬ一段 と深い世界を見て居たやうであります。私共の肉眼は月を星よりも大き く見たり、その月の球体を円板の如く見るほど不完全な視覚しか有ちま せん。賢淑の貞女を美色の婦に見かへる凡人の眼識は果して正しいと 謂へませうか。世間の幾人か能く功名富貴が錦覆の陥であることを看 破して、飢凍の如く之を恐るゝ者でありませう。誰でもが陰曇の天に晴 の理を見、晴朗の空に雨の気を察することが出来ませうか。ロトの目に は、将に天火に焼き亡ぼされんとするソドム、ゴモラの地が繁栄慕ふべ き都と見えました。耶蘇が壊滅を預知して為めに泣いたエルサレムの神 殿が、弟子等の目には輪奐の美、荘厳の大、天下に類ひなく頼もしきも のと見えたのであります。況んや私共の周囲に活ける死人も居れば、死 せる生人も居ります。貧しき富者と、富める貧者、博学の愚人、無学の 智者、郷愿と狂狷と正人と偽善者と、凡眼の容易に鳥の雌雄を分ち難き もの、いかに多きかを知らぬではありませんか。  是に至つて私共の眼根は本来空虚なるものですけれど、何らかに病翳 ありて、事物と人物との真相を見ることが出来て居らぬことが分かりま す。是れ神の子が生瞽の両眼に泥土を塗り、シロアムの池に行きて、之 を洗はしめた所以で、私共としても去虚偽の第一着歩は洗心一番、この 肉眼にて見るところの幻象をたのまず、心眼を見開いて天地人生の真実 相を拝見する必要があるのであります。  その視るや己に由らず、天明によりて視る  その聴くや己に由らず、天聡によりて聴く  天智によりて思ふ、故に間思維慮なく  天能によりて行ふ、故に徒為妄行なし


















輪奐
(りんかん)
建築物が広大で
りっぱなこと

郷愿
(きょうげん)
道徳家を装って
郷里の好評を得
ようとする俗物
狂狷
(きょうけん)
いちずに理想に
走り自分の意思
をまげないこと

病翳
(びょうえい)

生瞽
(せいこ)

シロアムの池
『新約聖書』に
登場する池
キリストが生ま
れつきの盲人を
癒す奇跡を行っ
たとされる 


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