高安 月郊(1868-1944) 金港堂書籍 1902 より
*** | 遠く海、兵庫の港、湊川、西国街道見ゆ。松の並木の間を大名の行列過ぐ。 | |||||
矩之 | あれ楠の墓前にて、籠をとヾめて、皆礼拝。 | |||||
中斎 | 身は敗れても後の世の、人を動かす真心は、 | |||||
矩之 | 忠か孝か仁か義か、 | |||||
中斎 | 人の命はこゝろぢやなあ。 | |||||
風の音 | ||||||
格之助鞭を携へ登り来る | ||||||
格之 | 父上、父上。 | |||||
中斎 | オ格之助、何として参つたな。 | |||||
格之 | お帰りまで待つて居られず、馬に鞭うちまゐりしは、今朝奉行所より俄の呼出し、取りあへず出頭、致せば大和殿には気色悪しく、此程の施行の事、退隠の身を顧みず、上を侮る致方、急度叱ると云渡され、 | |||||
矩之 | なに施行もお叱りとな。 | |||||
空愈々暗くなる
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格之 | 重々無念でござりまする。
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中斎 | (刀を抜て岩を打つ、火出づ)ウム火か、(電光)天にも火あり、地にも火あり、今に四海を照して見せうぞ。
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