|
せりふ
兜軍記琴責の段のあこ屋の言語に曰く、景清殿の行方知てさへ居るなら、お心に
ほだ
纒されて、つひぽんと云ふてのけうが、何を云ふても知らぬが、真実夫とても疑
い つ
ひ晴れずば、ハテ何日迄も責められうわいな、責めらるゝが勤めの替り、お前方
つとめ/\
も精出してお責なさるが、身のお勤々と云ふ字に二ツはない、鳴呼、浮世ではあ
せいはひ つま 党? いた
るぞいな、と又西 雑纂に曰く、英国の一夫人、其夫の亮禍を得て法に抵らんと
あるところ ひ
するに臨みて、之を一処に匿せしが、事其国王に聞れて、王の前に逮かれぬ、王
ところ まさ わがつま
曰く、汝只匿す所の処を告げよ、我当に汝を赦すべしと、夫人曰く、我吾夫を心
かく
中に蔵せり、吾心中を捜索するに非ざれば、吾夫は得べからず、と云張て、遂に
よるところ
其事を云はざりしと、阿古やの事は小説院本にのみ出て、正史に本拠なけれバ、
つまひらか いましばら みとめ
其有無を詳にせざれど、今姑く之れ有し人と見認て、謂はば彼は今より五百年前、
うきぐさ いと は か
野蛮未開の日本国に生れ、然も路傍の柳、水上の萍に比べらるゝ、最も果敢なき
一娼婦、彼は文化を以て名誉を地球上に轟かす英国貴族の一夫人、其品位を較ぶ
つま
れば、天星地石の違ひあれども、其夫に忠信の志し深く、吾心則ち上帝を信ずる
の力篤き事は、更に甲乙無しとこそ云ふべけれ、
あだしことはさておき かへつて こども
閑 話 休 題、却 説く、西村利三郎の妻菊枝、并に三人の小児、おかね忠助の六
とりて やくにん
名の者は、捕亡の吏員に捕縛され、大坂に引かれて、東町奉行所の仮牢に入れら
にち/\
れ、奉行跡部山城守の面前に呼出されて、日々の糾弾栲問、今日も亦、親子主従
よびいだ きつと かたち
六名とも大白州へ喚出されしが、山城守には儼然と形容を改めて、先ヅ菊枝に向
ひ、コリヤ、ヤイ、利三郎の妻菊枝、其方先日より度々尋問を遂ぐるに、只利三
郎は如何なる所存ありて、大塩の暴挙に与せしや、利三郎より承はりし事なけれ
く ありか
ば、素より知る筈なな、又其行方も在処もー向に存ぜぬ、知ぬとのみ云張れども、
しか/\
連添ふ女房、殊に三人の子迄ある中なれバ。此度云々の儀に依て、是々の事を思
立つと云ふ、予め話のなき事は、よもあるまじ、又行方を知ぬと云ふ訳もなけれ
いひわけ
ば、其方如何に強情を言張るとも、決して弁明は立難し、然ば此る己を欺き、上
こと すみやか かど
を欺くなる無益の言を謂んよりは、両件とも速に白状せよ、若し白状せバ、其廉
を以て其方の命と三人の小児の命は助け呉れん、若此上にも強情を云張ば、其方
から あまつさ べけ
を飽迄栲問せし其上に、三人の小児にも辛き目見せ、剰へ一命にも及ぶ可れバ、
ことば
彼是の利害を篤と思案して、真直に申上よ、と扇を膝に突立て、言尖く問掛けり、
【大白州で尋問される菊枝の図 略】
是より菊枝は如何なる答をなすや、此段尚つくさゞれども、例の長文に過んを恐
て、残念ながら次号に譲る、
|
党錮之禍
党派や政党を
結成したこと
が原因となっ
て発生する災
いのこと
|