Я[大塩の乱 資料館]Я
2018.5.23

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なにはいぶん  しほの なごり
「浪華異聞 大潮余談」
 その12
宇田川文海 (1848−1930)

『絵入人情 美也子新誌 第5号』所収 駸々堂 1882.6

◇禁転載◇

 第5回 (2)管理人註
  

はなにたいし よはざれば はなまさにわらふべし ひとたひかんぐわをとゞめて 花 不 酔 花 応 笑、一 止 干 戈 二 百 年、と南畝詩仏の両翁が連句          げ        み よ       のとけ    かみ  もゝしき          しも  くさのと して謳歌しけん、実に太平の聖代の春の長閑さ、上ハ百敷の大宮人より下ハ草門 わらや         しつ                          いつく 茅屋のいやしき賤に至る迄、今日も明日もと、桜狩酒と花とに遊ぶなる、何処ハ         あつま       みやま              すふじよ あれど鳥が啼く、東の比叡の御山こそ、此世からなる仙境浄土、蒭蕘の者も行き、 ち と                    れいいう 雉兎の者も行く、彼の文王の霊囿も、此処にハ如何で及ぶべき、えいとう/\東          なにが              むかし 叡山の花見かな、と某しの詠ひ出たる其往昔にも、弥増して賑ひ、謂んかたもな し、           とふ           こ ぞ                   かへう 頃しも天保八年の弥生十あまり五日の日、今年ハ去年よりの饑饉にて、野に餓         みやこのひと          よそ  なが さへあるなれど、都人士ハ夫をしも、他に与めて白雲か、雪と見紛ふ此山の、桜  もと が下に打集ひ、濡るとも花の、と朗詠して、風流を楽しむひともあれば、酒なく て何の己がわれものゝ、茶碗にあらで井戸端の、桜あぶなし酔漢の、殺風景なる 者もありて、千差万別、種々無量、恒河沙数の花見る人も、入相の鐘の一声に、          おのがさま/\にしひがし 散行く花と諸共に、各自東西南北、家路を指して帰行く、迹に残りし者とてハ、                         むなし とざ     また 花の稍に掛りたる、只一輪の明月のみ、六々の僧房ハ空く鎖して、復一僧の月下                 あたらや          めと の門を敲くさへなし、一刻千金の可惜夜を、誰とて愛るものもなき其折から、時           そゝ   わかれ いた を感じてハ花にも涙を酒ぎ、別を傷んでハは鳥にも心を驚す、と低声に吟じつゝ、        かたはら    しづ/\         ものゝふ        さ ま 東照公の御廟の傍より、徐々と露れ出たる一人の武夫あり、其形容如何にとなれ                            いか    よこた ば、黒木綿紋附の衣裳に白の小倉の袴を着け、朱鞘の両刀を厳めしげに横へて、     おもて            あたり               やが       ぬきすて   かたへ    おほ 深編笠に面を包みたるが、四辺の様子を伺ひて、頓て編笠を脱却つ、傍の桜の大               占? 木の下に、むんづとこそハ坐を召めたり、  【風流を楽しむ人々の図 略】 そも此武士ハ、如何なる者ぞ、次号を待て其誰なるを知賜へ、


南畝詩仏
大田南畝と
大窪詩仏






蒭蕘
(すうじょう)
草刈りと木こり、
いやしい人






















可惜夜
明けてしまうの
が惜しい夜
 


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