Я[大塩の乱 資料館]Я
2019.3.19

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「大塩の乱関係論文集」目次


なにはいぶん  しほの なごり
「浪華異聞 大潮余談」
 その31
宇田川文海 (1848−1930)

『絵入人情 美也子新誌 第12号』所収 駸々堂 1882

◇禁転載◇

 第12回(2)管理人註
  

内より肴を取寄て、誰憚らぬ小酒宴、人の物をば吾物顔に、妾宅模擬で洒落て居るを、 おなるハもとより温良き質故、若し此事が旦那に知れたら、夫こそ良人のお身の上、 もしや知れずに居た迚も、悪事ハ元より悪事なれバと、おかねと共々心を傷め、度々 意見を加ふるをバ、例の嫉妬と悪く取りて、其度毎に悪口雑言、果ハ殴撃打擲にさへ 及ぶにぞ、 おなるハ之を悪き事に思ふの余り、遂に持病の癪より心経病を起して、重き枕に伏、 柴の凝る計りなる悲嘆の体を、安兵衛ハ他に見て、隙さへあれバ小浪の家にのみ入浸 りて、只一日、片時の介抱ハ偖置き、今日ハ如何だ、少しハ宜いか、といふ一言の優 しい言だに懸けねバ、おなるハ愈々愁に沈み、日に/\病勢の募る計りなると、おか ねハ一人不便に思ふて、彼西村の菊枝の看護し如く、昼夜の差別なく傍らに附添ひ、 彼方の御病気ハ心経病とかいふものなるよし、お医者様の御見立なれじ何も彼もお忘 れなされて、気をうき/\とお持なされ、抔懇に言、慰の心の限り介抱せしハ、例も ながらの志操いと、殊勝なる事なりかし、 梅ケ枝さん、お前へおなるさんの処へ病気見舞においでか、オヤ房吉さん、妾ハ未だ 行ませんが、お前ハ最おいでだの、 イヽエ妾も未だ行かないが、大層様子が悪いさうだね、 ハア、最今日明日だといふ事だが、誠に可愛想だねへ、アンナ温和しい人ハ青楼の姉 さんにハ珍しい、夫に附ても憎らしいのハ安兵衛さん、彼処の家の息子さんでも、在 事か、養子の身分で在乍、家附の娘に散々辛く当り、有う事か有まい事歟、内の抱へ の小浪さんとオツナ中に成て居のだとね、居のだ処か、布長の旦那を甘く胡魔かして、 自分の内の長家に小浪さんを入てをき、旦那の来ない間を見てハ、好な真似を仕て居 るので、おなるさんの病気も、全く夫から起つたのだと云ふ噂だが、小浪さんも余り な仕打、自分の親方と一ツに成て、旦那の目を掠め、親方のおかみさんに病気を起さ せるとハ、チツト技倆があり過るでハないか、


   


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