ソモ大塩殿の初の計畧ハ、今度西の御奉行堀伊賀守殿の着坂されしに付き、東の
御奉行跡部山城守殿同道にて、今日組与力同心の屋敷町を巡見され、同役朝岡氏
やしき おんしるし
の邸に立寄て休息あるを幸ひ、不意に起ツて之を襲ひ、押取込て御両所の御首級
かねぐら
を揚げ、其勢ひに乗じて御城に責寄せ、矢庭に之を乗取て、金庫米倉の扉を開き、
おもひ う え
思の儘に窮民の餞餓を救ハん手筈なりしが、昨夜に至て、予て一味合体の其一人
かへりちう
たる平山助次郎の反忠に依て事顕れ、是も徒党の歴々たる瀬田済之助、小泉淵二
とまり
郎の御両処にハ、折しも奉行所に宿直番たるを以て、直に両奉行の前に召寄せら
れ、淵二郎殿ハ即坐にて打取られ、済之助殿一人のみハ、命辛々其場を切抜け、
しか/\
事云々と註進ありしかば、大塩殿にハ之を聞て少も騒ぐ景色なく、然バ敵より寄
うち こなた さきて
せざる中、却て此方より先駈せよ、と即時に人数を呼集め、前隊の大将ハ大塩格
なかぞなヘ あとぞなへ
之助殿、中隊の大将ハ大塩平八郎殿、後隊の大将ハ瀬田済之助殿にて、兼て約束
ぐるま おほづゝ
せし窮民のり駈附来りし者共迄、合せて総勢三百余人、火箭が二車に、巨銃が廿
こづゝ
三、小銃が七十有五挺、鎗手総員二十二員、救民の二字を記したる大幟を真先に
み て こんてう
押立て、三手に分れて押出したるハ、則ち今朝辰の上刻、大塩殿御親子にハ、何
おとし
れも黒糸絨の鎧に桃形の兜を召され、其余のお歴々方にハ、或ハ甲冑又ハ小具足、
くさり
中には鏈帷子に白布にて、鉢巻計せられたるものあり、加勢の百姓ハ、何れも陣
笠に竹槍を引提げたり、
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