Я[大塩の乱 資料館]Я
2019.4.16

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「大塩の乱関係論文集」目次


なにはいぶん  しほの なごり
「浪華異聞 大潮余談」
 その44
宇田川文海 (1848−1930)

『絵入人情 美也子新誌 第16号』所収 駸々堂 1882

◇禁転載◇

 第16回(1)管理人註
  

飛鳥川、淵にもあらぬ吾宿も、瀬に変りゆくものにぞありけり、 偖も新町南通の大安ハ、母のおよねの病気せしより、養子安兵衛の放蕩引続きて、お なるの病死等連年の物入にて、今ハ昔の大安ならず、 漸く娼妓の店附屋抔営みて、其日を送り居れども、おかねハ、およねにも、おなるに も、娘の事を頼む、子の事を頼む家の事を頼むと、懇なる遺言を受けし事あれば、斯 る成行になりても、少しも心を動かさず、おふくの君子の世話より、幸次郎、おかう の養育方、家の活計の取締迄、身一に担任て、何から何迄能く行届かせ、三拾年一日 の如く勤居る、其志の殊勝なる、比類稀なる女子と云ふべし、 夫に反対へ養子安兵衛ハ、おなるの病死より無理なる才覚して、芸妓狂をする計りか、 おふくの君子にも思を掛け、吾家に引取て、おなるの後妻にせんものと、折を求めて ハ掻口説けども、君子ハ姉のおなるが早世せしも、素ハと云へバ、安兵衛が薄情なる より起りし事、又吾家の此迄に衰へしも、必竟安兵衛が放蕩より出でし事、さすれば 姉の仇、家の敵に斉しき者なり、と平生心憎く思ひ居る事なれば、例も情なく謝絶て、 更に従ふ景色もなく、おかねも亦、君子に好き旦那か、又ハ沈着き婿を持せて、再び 大安の家名を起させんとの志あれバ、君子の陰になり陽になりて、安兵衛の防禦を成 すにぞ、 愈々心に任せねども、安兵衛ハ尚懲りずまに、間がな透がな君子を執へて、道に欠け たる無体の恋慕、 今日も君子が用ありて家に帰りし其折しも、幸おかねの留主なれば、平生の望を遂る 時節と、安兵衛ハ心に喜び、奥の一間に君子を誘ひ、斯おふく、此間から度々云ふが、 未だ手前ハ得心が行かぬのか、如何に年が行かぬからと云ふて、素人の生娘でハある まいし、芸妓と名か附て居るからにハ、チットハ客を欺す事も知て居るであら、ソノ 欺す智恵がありながら、己の云ふ事が訳らねへとハ、如何したものだ、此大安の家と 云ふものハ、名前人の此己の物にハ相違ないけれども、血筋から云へば死だおなると 手前の物でハないか、

   


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