聴て居たからハ、改て謂ふにも及ばぬが、今私が君子に謂ふた有枝有葉、ナント無理
なことハ、一條もあるまいがな、と手強く謂バ、軽く受け、貴公ハ御尤だと思召すか
知りませんが、妾が承つた処でハ、御道理様だと計りハ申されません。
ナニ、尤だとハ思ハれぬと、夫ハ又何処が無理だと少し遽込て問掛るを、おかねハ弥
々落着て、何処がと仰しやるが、全体、君子様に女房になれと仰しやるのが御無理で
御座ります、
ソレハ又何故に、何故と云ふてマア考へても御覧じませ、おなるさまがアヽ云ふ事に
お成りなされたも、貴君様の御不品行より起つたこと、又此大安のお内の此う云ふ訳
に成たのも、貴君様のお不心得より出来た事、して見れば、お姉へ様の為にも、お家
の為にも成らなかつた、お前様に失礼ながら、君子様がウンと云ふてお連合に成う筈
ハなし、又夫計か君子様にハ、良き旦那様をお取なさるか、左もなけれバ、行々然る
べき婿をお貰ひなされて、大安のお家を再び元に復さなけれバ成らぬ身の上なれバ、
以来此事ハ思切た幸次郎様とおかう様を大切に養育、おなる様のお追善の為に、最う
お連合をお持なさる事ハ、お止なさるが宜しう御坐り升、と断然謂れて、流石の安兵
衛も、元より吾無き後にてハ吾と思へと、母の遺言あるおかねの事、殊に如何にも尤
もなる言分なれバ、二言と答ふる辞もなく、坐敷ハひらけて見へたる折ネ、小山の店
の箱奴がチヨコ/\走にて入来り、例の高調子にて、ハイ君子さん、お支度で御坐い
升、
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