Я[大塩の乱 資料館]Я
2019.5.9

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「大塩の乱関係論文集」目次


なにはいぶん  しほの なごり
「浪華異聞 大潮余談」
 その50
宇田川文海 (1848−1930)

『絵入人情 美也子新誌 第17号』所収 駸々堂 1882

◇禁転載◇

 第17回(3)管理人註
  

国中の人ハ云ふも更なり、近国の人々まで吾を先と此山に歩を運び、其賑ひ云ん方な し、 常太郎も例の清助に誘ハれて大満山に上り、終夜本堂に参籠して、龍灯を見、夜の明 方に多勢の群集と共に吾勝に山を下りしに、何時の間にやら清助に離れ、便宜も知ぬ 山中を、彼処那辺と彷徨しが、遂に山の後に迷入り、行けども/\人家なきにぞ、 殆ど倒惑の胸を痛め、とある木蔭に立、休息ぬ、 此る折柄、傍の谷間に鼾の声の々と聞えければ、樵夫などの熟睡せるにや、若し夫 なれば、呼起して里へ出る道の程をも尋ねんものと、ソツと立寄て差覗きしに、コハ 如何に、四斗樽の回り程なる大蛇の幡屈て寝て居しかば、アナヤと計り打驚き、若目 覚て見附られなば、一命も覚束なし、と足をばかりに其場を迯延び、尚山深く分入し が、昨夜一夜さ少しも睡らざるさへあるに、木の根岩角の嫌ひなく、数里の路を奔走 せしかば、今は心身共に労れて、頻に睡気を催ふすにぞ、 仮令猛獣毒蛇の餌食となるとも、此上ハ一歩も進み難しと、大胆にも覚悟を定め、傍 の岩に身を凭せて、暫時の間困臥みしと思へば、フト笛太鼓にて囃子立る里神楽の音 の、幽にこそハ聞えけれ、

困臥
疲れて寝ること



 


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