Я[大塩の乱 資料館]Я
2019.5.20

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なにはいぶん  しほの なごり
「浪華異聞 大潮余談」
 その56
宇田川文海 (1848−1930)

19号』所収 駸々堂 1882◇禁転載◇

 第19回(2)管理人註
  

常太郎ハ茶と菓子とを取りて、恭く押戴き、例もながら御懇切なる御賜物、恭なう頂 戴致す由、御身より宜しう御礼を申してよ、と四角四面なる挨拶に、流石のおさきも 言寄る術なく、尚も一二江湖雑談をなして、暫時々を移せしが、頓て常太郎ハ言葉を 改め、おさきどの、織江様にハ来頃御病気にて、御引籠の由なるが、御風邪にてもあ る事か、と何心なく問掛けしを、爰ぞとおさきハ膝摺寄せ、当座の御病気なれハ、好 けれども、旦那様の様なる御名医でも、又有馬、草津のやうなる名湯にても癒しかぬ るといふ手重い御病気故、誠に御案じ申すなり、と聞きて、常太郎ハいよ/\驚き、 医術にても湯治にても癒しがたなき御煩とハ、夫ハ又如何なる御病気にや、と問へバ、 おさきハ声を密め、小娘に小袋とやらの世の喩、まだ小女よと思居りしに、何時しか 春情のつき給ひて、此間より去人に懸想なされ、其物思の慕りしより、遂に想思病を 差出し給ひしなり、と云へバ、常太郎ハ眉を顰め、想思病に疾み給ふ程深く懸想せし 人なれは、何とて御両親に打明けて、婿君にハ做給ハぬ、但恋ハ思案の外とか云へば、 身分の不釣合にて、迚も明白にハ調へ難き事情あるにや、 否々流石に村上先生の嬢様とて、業体の賤き男抔を思染め給ひしにはあらで、御両親 にも予て其おん方の才学を愛で給ひ、情願して織江の婿にもが、ふと折々寝物語にし 給ふ程なれバ、夫に差支ハなけれども、少し外に故障ありて、其事の遂げられぬより、 嬢様にも思煩ひ給ふにこそ、 夫ハ誠に御不便の至なり、若織江様の其病の募りて、不測の事にも成り給ハヾ、夫こ そ悔みても帰らぬ事なり、如何なる故障か知らねども、某、先生に此理を説きて思を 遂げさせ参らせん、シテ其恋人ハ何人にや、決して他言ハ致さぬ程に、拙者の心得迄 にお漏しあれ、と真面目に成りて尋ぬれば、おさきは、莞爾打笑ひ、其恋人ハ別人な らず、則ち貴卿に侍るなり、と断然云ハれて、常太郎ハ不意に匕首にて咽を刺され、 短銃にて胸を打たれしも此や、と思ふ計りの驚きにて、ナニ恋人ハ某とな、と思ハず 高く叫びけり、






江湖
世の中、世間

















想思病
恋わずらい


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