| 倹約と御老中評定 |
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倹 約 と 御 老 中 評 定 |
御老中評定の上にて、近年は年々に世間行き詰り、公儀にも不時の御物入続なる故、公方様にも無用の御道具類悉く御売払にて、総べて物事是迄とは半減にすべしとなり。先づ第一に禁裏様をばきんり様と唱へ、仙洞様をば五百銅様と唱へ、公方様は四方半様、御老中は二老半中、大名は小名、旗本・御家人の類も是に准じ、大納言は中納言、大臣は大納言、中納言は少納言、少納言は宰相、宰相は中将、中将は侍従、侍従は大夫、其外士は一むらひ半、百姓は五十姓と云ふべき由に相定りしと云ふ。公方様より仰出さるゝ様は、「此度倹約に付て、御先代より伝来の諸道具と雖も、差当り無用の物は悉く売払ひしが、今一つ至つて大切なる物なれ共、是を売払はゞ大なる利徳得べしと思ふ故、是を売払べし」と仰せらるゝにぞ、「夫は如何なる物にて候や」御老中より御尋ね有りしに、「外の物にてはなし。葵の定紋なり。此度何事も半滅なれば、三つ葵はいらぬ事なり。已来一つ葵にして二つは之を売払ふべし」との上意なるに、「こは怪しからぬ御事なり。
三つ葵も一つ葵も之を付くるに直段・染賃等の甲乙なし。然るに之を御払ひになりしとて、御紋の事故如何共なし難く、之を買ふ人は決して有るまじき事なり。甚以て心得難き御上意なり」と申さるにぞ、「怪む事なかれ。売りさへすれば買人は沢山なる事なり」との上意なる故、「其買人と申すは如
何なる者に候や」と伺はれしに、「外にてもなし、町人共へ売りさへすれば、何程にても悦んで買ふべし。此間物見に出て外を眺め居たりしに、町人共大勢連れにて物見の下を通りしが、何れも口を揃へ、時節が悪るふて青ひ顔\/と申したり。これを売らば大なる益ならん」と仰られしとぞ。物事に行き詰り困窮して困れる事を、近年京摂にて「青ひ顔ぢや」といへる流行詞有り。この詞によりての咄なれば、こは京摂の間にて作意せし咄ならんと思はる。 |
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十月廿四日東御役所へ被召出、於御前東西御奉行様御立会の上、左の通被仰渡候。
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