●たう いうり じやうしやう
一七 湯の夏台文の里、及び文丞相の土室、其の皆
● ● たづ
裕如晏如として平生と異ならざる所以の道を繹ぬ
●れいご
るに、他にあらず。其の囹圄身を容るるの虚は、
●れい
乃ち太虚の虚にして、其の宮室窓櫺の内に居ると、
せま いや
亦た以て異なるなし。故に狭からず、又陋しから
ず、憂へず、又た懼れず、為れ其の裕如晏如の由
て然る所なり。而て要は其の心の虚を失はざるに
在るなり。人もし吾が心の虚を失はずんば、則ち
いづ
何くに往て広大ならざらん、何くに居つて安楽な
けふろう
らざらん。而て又た何の狭陋かこれあらん。何の
な
憂懼をこれ為さん。
湯之夏台、文之里、及文丞相之土室、繹其所
以皆裕如晏如与平生不異之道、非他、其囹
圄容身之虚乃太虚之虚、而居其宮室窓櫺之内
亦無以異、故不狭又不陋、不憂又不懼、是
其裕如晏如之所由然也、而要在於不失其心
之虚也、人如不失吾心之虚、則何往而不広
大、何居而不安楽、而又何狭陋之有、何憂懼
之為、
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●湯の云々。殷
の湯王は夏の桀
王の為に夏台に
幽せられ、周の
文王は殷の紂王
に里に囚はれ、
宋の文天祥は元
に捕はれて、土
牢に入れらる。
●裕如。ゆるや
か。
●晏如。やすら
か。
●囹圄。牢獄。
●櫺。窓のれん
じ。
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