山田準『洗心洞箚記』(本文)125

山田準『洗心洞箚記』(本文)125 Я［大塩の乱資料館］Я
2010.3.2

『洗心洞箚記』　(本文)

その１２５

山田　準訳註

岩波書店 1940　より

◇禁転載◇

上　巻 訳者註

　　　　　　●しす　　　　　　　　　　ぐ 一五三　敬の斯須も離るべからざるや、愚と雖も書を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とな　読む者は則ち皆之を知る。然れども人徒に敬を倡へ　て、而て其の道を尽さざれば、則ち却て不敬なり。　　　　　　　　　び　　　　　　　● 　夫れ敬の体用は、微にして大なり。易に曰く、「敬　以て内を直くす」と。大学に曰く、「敬に止る」と。　●　　　　　　　　　　な　　　　　　げん　曲礼に曰く、「敬せざる毋かれ、儼として思ふが如　　ことば　く、辞を安定にし、民を安んぜんかな」と。是の故　に敬と云へば則ち心直し。心至善に止る、然る後に　　　　　　　　　　　　だ　　　まん　其の体立つ、容貌は常に惰廃暴慢の状あるべからず、　　　　　 ●くわもく　　　　ぎぎやく　言辞は常に過黙多言と戯謔の失あるべからず。而て　　　　　 ●わいざつ　家人は常に猥雑乱濁の行無し、然る後其の用行はる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しか　是に於て始めて敬を尊ぶと謂ふべきのみ。否らざれ　ば則ち口敬にして、而て内外倶に其の実無し、之を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　● 　敬と謂ふ可ならんや。故に吾が輩真に工夫を此の一　　　　　　　　　　こひねがは　　　　　　　　とゝな　字に用ふれば、則ち庶幾くば身修つて而て家斉はん。　　敬之不可斯須離也、雖愚読書者則皆知之、　　然人徒倡敬、而不尽其道、則却不敬也、夫敬　　之体用、微而大、易曰、「敬以直内」、大学曰、　　「敬止」、曲体曰、「毋不敬、儼如思、安定　　辞、安民哉」、是故敬云、則心直矣、心止至　　善矣、然後其体立矣、容貌常不可有惰廃暴慢　　之状、言辞常不可有過黙多言、与戯謔之失、　　而家人常無猥雑乱濁之行、然後其用行矣、於　　是始可謂尊敬也已矣、否則口敬、而内外倶無　　其実、謂之敬可耶、故吾輩真用工夫于此一字、　　則庶幾身修而家斉矣、

●斯須。しばし。 ●易。文言伝に出づ。 ●曲礼。礼記に曲礼篇あり。 ●過黙。沈黙に過ぐ。 ●猥雑。みだらな、つまらないこと。 ●此一字。敬の一字を指す。

上　巻	訳者註
●しす　　　　　　　　　　ぐ一五三　敬の斯須も離るべからざるや、愚と雖も書を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　とな　読む者は則ち皆之を知る。然れども人徒に敬を倡へ　て、而て其の道を尽さざれば、則ち却て不敬なり。　　　　　　　　　び　　　　　　　● 　夫れ敬の体用は、微にして大なり。易に曰く、「敬　以て内を直くす」と。大学に曰く、「敬に止る」と。　●　　　　　　　　　　な　　　　　　げん　曲礼に曰く、「敬せざる毋かれ、儼として思ふが如　　ことば　く、辞を安定にし、民を安んぜんかな」と。是の故　に敬と云へば則ち心直し。心至善に止る、然る後に　　　　　　　　　　　　だ　　　まん　其の体立つ、容貌は常に惰廃暴慢の状あるべからず、　　　　　 ●くわもく　　　　ぎぎやく　言辞は常に過黙多言と戯謔の失あるべからず。而て　　　　　 ●わいざつ　家人は常に猥雑乱濁の行無し、然る後其の用行はる。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　しか　是に於て始めて敬を尊ぶと謂ふべきのみ。否らざれ　ば則ち口敬にして、而て内外倶に其の実無し、之を　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　● 　敬と謂ふ可ならんや。故に吾が輩真に工夫を此の一　　　　　　　　　　こひねがは　　　　　　　　とゝな　字に用ふれば、則ち庶幾くば身修つて而て家斉はん。　　敬之不可斯須離也、雖愚読書者則皆知之、　　然人徒倡敬、而不尽其道、則却不敬也、夫敬　　之体用、微而大、易曰、「敬以直内」、大学曰、　　「敬止」、曲体曰、「毋不敬、儼如思、安定　　辞、安民哉」、是故敬云、則心直矣、心止至　　善矣、然後其体立矣、容貌常不可有惰廃暴慢　　之状、言辞常不可有過黙多言、与戯謔之失、　　而家人常無猥雑乱濁之行、然後其用行矣、於　　是始可謂尊敬也已矣、否則口敬、而内外倶無　　其実、謂之敬可耶、故吾輩真用工夫于此一字、　　則庶幾身修而家斉矣、	●斯須。しばし。 ●易。文言伝に出づ。 ●曲礼。礼記に曲礼篇あり。 ●過黙。沈黙に過ぐ。 ●猥雑。みだらな、つまらないこと。 ●此一字。敬の一字を指す。

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