おこ のぞ
一六〇 一利を興すは、一害を除くに如かず、一事を
はぶ ●やりつ
生ずるは、一事を省くに如かずと。而て耶律文正の
いづ ●ぼくば
言何くより出づるぞ、牧馬の童子も亦た其の馬を害
●さうしつゑん
する者を去るのみの答へより来る。而て荘漆園の論、
いづ ● えい● ●ぐ
何くより出づるぞ、四裔両観の誅より来る。而て虞
● せん
帝と文宣王との挙は、何くより出づるぞ、太虚の真
仁より来るなり。鳴呼、政の道は、実に其の害する
●てい ねい
者を去るに尽く。故に鄭声を放ち侫人を遠ざくるは、
亦た只だ人心を害する者を去るのみ。漢唐の中主に
ぼうこ こそくいんじゆん ●く
至つては、茫乎として斯の義に暗く、姑息因循、煦
ゝ うる
煦の小変を施し、以て民を沢し物を潤ほすとなす。
●
嗟乎、これ漢唐の人為、三五の天徳に及ばざる所以
なるかな。
興 一利 、不 如 除 一害 、生 一事 、不 如 省
一事 、而耶律文正之言、従 何出焉、自 牧馬童
子亦去 其害 馬者 而已矣之答上 来、而荘漆園之
論、従 何出焉、自 四裔両観之誅 来、而虞帝与
文宣王 之挙、従 何出焉、自 太虚之真仁 来也、
鳴呼、政之道、実尽 乎去 其害者 矣、故放 鄭声 、
遠 侫人 亦只去 害 人心 者 焉耳、至 漢唐中主 、
茫乎暗 斯義 矣、姑息因循、施 煦煦小愛 、以為
沢 民潤 物、嗟乎、此所 以漢唐之人為、不 及 三
五之天徳 也哉、
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●耶律文正。元
初の宰相耶律楚
材、文正と謚さ
れる。
●牧馬云々。荘
子の語。
●荘漆園。荘子
嘗て漆園の吏と
なる故に云ふ。
●四裔。舜四凶
を誅し四裔に投
ず、裔は遠きは
て。
●両観。孔子魯
の政を乱す少正
卯を両観に誅す、
観は公門の関。
●虞帝。舜。文
宣王、孔子。
●鄭声云々。論
語衛霊公篇の語。
●煦々。小仁の
貌。
●三五。三皇五
帝。
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