● せいせん たう けつ はう ぶ ちう
一六一 孟子、斉宣が湯の桀を放し武の紂を伐つを問
ふの章に至れば、君子必ず口に此の語を誦するに忍
びず、然かも君子猶之を講ずるは何ぞ。只だ其の仁
そこな なん す
を賊ひ義を賊ふの四字あるを以てのみ。曷為れぞ其
の四字あるを以て、君子猶之を講ずるや。夫れ君子
これ
の書を読む者、諸を吾が心に反求し、而て之を紙上
ぐわいきう
に外究せず。故に我れ仁を賊ふこと彼れの如きか、
ねん\/これ
我れ義を賊ふこと亦た彼れの如きかと、念念諸を吾
●ゑにち と たと
が慧日に詢ひ、もし賊ふことあらば、則ち縦ひ人禍
いづく
を免るるとも、焉んぞ天誅を免れん。賊はずんば、
ほまれ
則ち人誉なしと雖も、必ず天祐あり。是の故にもし
那の四字ある無くんば、則ち君子は必ず之を読まざ
も
らん。設し孔子をして其の問に答へしむれば則ち必
●ばくろしゆんぱつ
ず無窮の味ありて、而て此の如き英気の暴露峻発に
● かん こゝ ほゞ
至らざらんか。聖賢の一間は、是に於て略見るべし。
孟子、至斉宣問湯放桀武伐紂之章、君子必
不忍口誦此語、然君子猶講之何、以只其有
賊仁賊義四字也耳、曷為以有其四字、君子
猶講之乎、夫君子之読書者、反求諸吾心、而
不外究之紙上、故我賊仁如彼乎、我賊義亦
如彼乎、念念詢諸吾慧日、如有賊焉、則縦免
人禍、焉免天誅、不賊焉、則雖無人誉、
必有天祐、是故如無有那四字、則君子必不
読之也、設使孔子答其問、則必有無窮之味、
而不至如此英気之暴露峻発也歟、聖賢之一間、
於是略可見矣、
|
●孟子。梁恵王
下篇に出づ、孟
子斉宣王が湯武
の放伐を問ひし
に答へて「仁を
賊ふ者は之を賊
といふ、義を賊
ふ者は之を残と
いふ」の語あり。
●慧日。心霊。
●暴露峻発。さ
らけ出して、き
びしく言ふ、「一
夫の紂を誅する
を聞く云々」に
当る。
●一間。一段階
の隔て。 |