山田準『洗心洞箚記』(本文)144 Я[大塩の乱 資料館]Я
2010.5.18

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『洗心洞箚記』 (本文)

その144

山田 準訳註

岩波書店 1940 より



◇禁転載◇

上 巻訳者註

                     したが 一七三 好んで史を読む者は、明道程子の説に遵うて  以て之を治むれば、則ち当に身心を益すべし。而て おのれ  己を誤らず、又人を誤らざるなり。初学もし史類を はんくわんはくきゆう       こは  泛観博究せば、則ち心術を壊し了ること必せり。然      きん  れども勢禁ずべからざるなり。故に之をして専ら其     せい     れつ           の忠孝旌徳及び烈女伝を読ましむるに如くは莫し。     けみ  一伝を閲するも、猶忽ち良心を動かし、涕泣を流さ  しむる者あり。然らば則ち必ず復た其の忠孝義烈を  した         き              慕ふの願内に萌ざし、而て其の貞操高節に愧づるの                   すうでん  情心を攻むる者あらん。況や之を読むに数伝を以て  し、之を読むに歳月を以てせば、乃ち彼と一に、性   ゆう          かん         せま  と融し、忠孝の変、倫常の艱、万一身に逼らば、則   ふん                   しゆう  ち憤然として心を君父国家に尽し、而て美を前脩に                  あらは  譲らざらん。則ち独り其の徳を世に顕すのみにあら               あ    かぞ  ず、其の国家を益する何ぞ勝げて算ふべけんや。学                  どぐわい  者心を茲に存せず、忠義烈女伝等を度外に棄て置き、              しいぎやくいんいつ       只だ其の攻伐戦闘の成敗、弑逆淫の濁乱、及び鬼  いき       だかつ        どく  の正類を陥れ、蛇蝎の清流を毒するを講究すれば、               けう  則ち駸駸として不善を為すの竅に赴くを知らざらん、                     つゝし  豈恐るべきの甚しきにあらずや。故に子弟慎みて我           こひねがは            き  が教を守らば、則ち庶幾くば人面獣心の帰を免れん。              いうだう       たゞ  然りと為さざれば則ち之を有道の君子に質せ。   好読史者、遵明道程子之説以治之、則当   于身心、而不己、又不人也、初学如泛   観博究史類、則壊了心術必矣、然勢不禁   也、故莫使之専読其忠孝旌徳及烈女伝、   閲一伝、猶忽有良心涕泣焉、然則   必復有其忠孝義烈之願萌於内、而愧其貞   操高節之情攻乎心也、況読之以数伝、   積之以歳月、乃与彼一、与性融、忠孝之変、   倫常之艱、万一逼于身、則憤然尽心于君父国   家、而不美于前脩、則不独顕其徳于世、   其益于国家、何可勝算也哉、学者不心乎   茲、棄置忠義烈女伝等于度外、只講究其攻伐   戦闘之成敗、弑逆淫之濁乱、及鬼之陥正類、   蛇蝎之毒清流、則不駸駸赴不善之竅、   豈非恐之甚乎、故子弟慎而守我教、則庶   幾免於人面獣心之帰、不然則質之有道之   君子



明道程子。宋
の純儒程は明
道先生と称せら
る。伊川の兄な
り、史に耽るも
のを誡めて、物
を玩び志を喪ふ
といふ。
















前脩。前賢。





。詩経小
雅に、悪人を
「鬼たりたり」
と云ふ、は水
中に在つて人を
毒する虫。

正類。君子を云
ふ、「清流」と
同じ。

竅。穴なり、
其れに落ちこむ。

同意しなけれ
ば。


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