●げつが こう
一七四 明史の月娥伝を読み、寇至つて城陥る、月娥
● しれい せつ
嘆じて曰く、「吾れ詩礼の家に生る、節を賊に失ふ
いだ
べけんや」と、幼女を抱き水に赴いて死するに至つ
くわん おほ がい
て、未だ嘗て巻を掩うて以て慨然として流涕せずん
●けんはいくわんしやう かう う おく
ばあらず。剱佩冠裳し、降を売つて後るるを恐るる
と こ さつ ●が び たい
の徒、是の冊子中の蛾眉に対し、面目無きにあらざ
ふ けが ●
らんや。吾れ詩を賦して曰く、「身を汚す独り河間
ふ しか
の婦のみにあらず。天下の男児多く亦た然り。月娥
なにもの は りうし がん うつく
何者ぞ詩礼に恥ぢんや。水上の流尸顔尚ほ妍し」と。
読明史月娥伝、至寇至城陥、月娥嘆曰、「吾
生詩礼家、可失節於賊耶、」抱幼女赴水
死、未嘗不掩巻以慨然流涕也、剱佩冠裳、売
降恐後之徒、対是冊子中娥眉、非無面目矣
乎、吾賦詩曰、「汚身不独河間帰、天下男児
多亦然、月娥何者恥詩礼、水上流尸顔尚妍」、
|
●月娥。明史烈
女伝に在り。
●詩礼。読書の
家。
●剱佩云々。武
装礼服。
●蛾眉。うつく
しき眉、美人を
云ふ。
●河間婦。柳宗
元の文集に見ゆ、
淫婦の称。
|