●し し い つく
一七六 鳴呼、孔子の気象徳容は、子思之を道ひ尽せ
● せい そう
り。其の言に曰く、「唯だ天下の至聖のみ、能く聡
めいえいち かんゆうおんじゆう い
明睿知、以て臨むあるに足り、寛裕温柔、以て容る
と さい
る有るに足り、発強剛毅、以て執る有るに足り、斉
さうちゆうせい けい ぶんりみつさつ
荘中正、以て敬する有るに足り、文理密察以て別つ
ふはくえんせん
あるに足ると為す。溥博淵泉、而て時に之を出だす」
と。其の門弟子の如きは、則ち之を兼ぬる能はず、
●き
而て只だ一を主とす。一を主とす故に器なり。一を
主とせずして溥博淵泉、而て時に之を出だせば、則
ち太虚と体を同じうするものか。故に孔子は即ち器
まさ
ならざるなり。即ち天なり。其の堯舜に賢れるもの、
た のこ
豈但だ文字を万世に胎せるのみならんや。
鳴呼。孔子之気象徳容、子思道尽之矣、其言曰、
「唯天下至聖、為能聡明睿知、足以有臨也、寛
裕温柔。足以有容也、発強剛毅、足以有執也、
斉荘中正、足以有敬也、文理密察、足以有別
也、溥博淵泉、而時出之、」如其門弟子、則
不能兼之、而只主一、主一故器矣、不主一
而溥博淵泉、而時出之、則与太虚同体者矣乎、
故孔子即不器也、即天也、其賢於堯舜、豈但文
字胎於万世而已哉、
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●子思。名は、
孔子の嫡孫、中
庸を著はす。
●以下中庸に出
で、子思が天下
至誠の徳を表し
て、孔子を賛す、
就て領得すべし。
●器。論語為政
篇に「君子器な
らず」とあり、
器は一枝に長ず
るを謂ふ。
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