洗心洞箚記下
中斎先生著 門人 松本乾知 点
松浦誠之 校
但馬守約
一 性善上より道を行ひ来る者は、高下精粗を論ぜず、
けつみやく
堯舜孔孟の血脈なり。情欲の上より悪を為し来る者
●けつちう●もうさう べうえい
は、小大深浅を論ぜず、桀紂莽操の苗裔なり。外に
●しやうてん うち ●
仁義を粧点し、而て衷に功利を包蔵し、以て問学に
よ すなは は ど
道り、以て世務に従事する者は、便ちこれ覇者の奴
れい あ かぞ
隷なり。億兆勝げてふべからずと雖も、人品は要
あゝ
するに此の三等を出でず。吁、人たらんと欲する者
は、択んで之を行はずんば、焉んぞ知を得ん。而て
けみ
史を閲する者、亦た之を以て当時の人の心術行事を
●れう/\
観れば、則ち了了然たらん。
自性善上行道来者、不論高下精粗、堯舜孔
孟之血脈也、自情欲上為悪来者、不論小大
深浅、桀紂莽操之苗裔也、外粧点仁義、而衷
包蔵功利、以道問学、以従事世務者、便是
覇者之奴隷也、億兆雖不可勝、人品要不
出乎此三等、吁、欲為人者、択不行之、焉
得知、而閲史者、亦以之観当時之人之心術行
事、則了了然、
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●夏の桀王、殷
の紂王、皆暴君
なり。
●前漢末の王莽、
後漢末の曹操は、
皆纂奪の臣なり。
●粧点。飾る。
●問学。中庸の
語。
●了了然。明瞭。
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