●し はくぼう いやしく
一九 藉くに白茅を用ふとは、事苟もせざるなり。
● こゝ
再びせば斯に可なりとは、決して之を行ふなり。
専苟くもせずと、決して之を行ふと、一を廃すれ
ば則ち大事成らず。
藉用白茅、事不苟也、再斯可矣、決行之
也、事不苟、与決行之、廃一則大事不成
矣、
ろゑい ●くわんしばまさ
二〇 孔子魯衛に悦ばれず。宋の桓司馬将に要して
あ ●びふく
之を殺さんとするに遭ひ、微服して宋を過ぐ。夫
れ孔子の聖にして、而も魯衛用ひず、相司馬之を
いひ
殺さんとす、実に其の何の謂を知らざるなり。然
すゐじん
り而て之を人情に推尋すれば、則ち只だ羣小其の
●ぜひ
是非の公を畏るるのみ。故に乃ち比に至る。況ん
や吾が輩聖人を学び、一に良知に任せ、以て是非
●じんくわ
を公にすること狂者の如きをや。則ち其の人禍殆
はか
ど測るべからざるものあり。然りと雖も徒に人禍
おそ ぜ ひ くら
を怖れ、終に是非の心を昧ますは、固より丈夫の
● まみ
恥づる所。而て何の面目ありて聖人に地下に見え
んや。故に我れ亦た吾が志に従はんのみ。
孔子不悦於魯衛、遭宋桓司馬将要而殺之、
微服而過宋、夫孔子之聖、而魯衛不用、桓司
馬殺之、実不知其何謂也、然而推尋之人
情、則只羣小畏其是非之公焉耳、故乃至此
矣、況吾輩学聖人、一任良知、以公是非
如狂者、則其人禍殆有不可測者焉、雖
然徒怖人禍、終昧是非之心、固丈夫之所
恥而何面目見聖人于地下哉、故我亦従吾志
已矣、
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●藉くに云々.
易の大過の卦の
文、物の下に白
茅を藉く、丁寧
に取扱ふこと。
●再びせば云々。
論語公冶長篇に、
孔子が季子文の
三息を評して、
再びせば可なり
と云ひしこと見
ゆ。
●桓司馬。司馬
の官にある官。
●微服。人目を
避けるために微
者の服をつけて
旅行する。
●是非云々。聖
人は公平に是を
是とし、非を非
とす。
●人禍。刑罰罪
禍。
●聖人。孔子。
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