●じうねい かうさ そこな ●と
二一 柔侫・狡詐は、皆是れ良知を賊ふの蠧なり。
● たゞ をのれ
之に加ふるに学力を以てすれば、則ち啻に己の良
そこな と をは
知を賊ふるのみならず、亦た人人の良知を蠧し了
らん。
柔侫狡詐、皆是賊 良知 之蠧也、加 之以 学
力 、則不 啻賊 己之良知 、亦蠧 了人人之良
知 也、
●ちんどうほ ●ぎ り さう
二二 朱子・陳同甫に与ふる書に曰く。「義利双
かう へいよう しりぞ ふん こら よく
行、王覇竝用の説を け去り、而て忿を懲し慾
ふさ
を窒ぎ善に選り過を改むるの事に従事し、粋然
● りつ
醇儒の道を以て自ら律せば、則ち豈独り人道の
ばいよう
禍を免るるのみならん。而も本根を培壅し、源
す はつき
を澄まし、本を正しうし、異時事業を発揮する
の地と為す所以のもの、益々光大にして高明な
おも
らん」と。吾れ意ふに、義利双行、王覇竝用の
こうぜつ
事は陳氏特に口舌に挙ぐるのみ。而て其の心は
こひねが
則ち亦た道に帰せんことを庶幾ふなり。而て朱
●さい ●
子に従うて学ぶ者、蔡氏父子及び黄李数子の外、
りめん
皆道学と称すと雖も、恐らくは未だ其の裏面に
義利双行、王覇並用の実あるを免るる能はざる
●
なり。豈彼れは此れより善きにあらざらんや。
●やう
然らば則ち朱子の論ずる所、但だ陳氏の陽病を
い ●いん
医するのみにあらず、却つて亦た其の徒の陰病
へん ●
を するなり。吾が輩表裏合一せず、心口同符
せず、故に亦た当に反観内省して而て其の病を
りつ
去り、粋然醇儒の道を以て自から律すべし。則
● ゆる ちか
ち先賢の憂患を弛ぶるに庶からん。
朱子与 陳同甫 書曰、「 去義利双行、王
覇竝用之説 、而従 事於懲 忿窒 慾遷 善改
過之事 、粋然以 醇儒之道 自律、則豈独免
於人道之禍 、而所 以培 壅本根 、澄 源正
本、為 異時発 揮事業 之地 者、益光大而高
明矣、」吾意者義利双行、王覇竝用之事、陳
氏特挙 於口舌 而已、而其心則亦庶 幾帰 乎
道 、而従 朱子 学者、蔡氏父子、及黄李数
子之外、雖 皆称 道学 、恐未 能 免 其裏面
有 義利双行、王覇並用之実 也、豈非 彼善
乎此 耶、然則朱子所 論、非 但医 陳氏之陽
病 、却亦 其徒之陰病 也、吾輩表裏不 合
一 、心口不 同符 、故亦当 反観内省、而去
其病 、粋然以 醇儒之道 自律 、則庶 乎弛
先賢之憂患 矣、
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●柔侫。柔媚好
侫。
●蠧。物をを喰う
虫。
●学力云々。学
問を悪用して、
善を曲げ、人を
迷はす。
●陳同甫。南宋
の陳亮、字は同
甫、喜んで兵を
談じ、経済に志
す、朱子之を非
難す。
●義利双行、義
と利とを双方採
用し、王道と覇
道とを併用す。
●自ら律す。自
ら規律的にする
こと。
●蔡氏。父は蔡
元定、子は蔡沈
字は仲黙。
●黄李。黄幹と
李方子、何れも
朱子の高弟。
●彼れは此れよ
り善き云々。大
差のないこと.
●陽病。表面に
公言する病気。
●陰病。人に知
れない内部的な
病気。
●同符。割符を
同一にする。一
致する。
●先賢。朱子。
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