みち そむ もと
二四 博識にして道に叛き、雄弁にして理に悖る、
そこな そこな ●せうせいばう
則ち風を傷ひ、俗を害ふ、此れ少正卯の孔子の誅
を免れざる所以なり。而て春秋戦国の間に至つて
いくた
は、少正卯幾多なるを知らず。唯だ一聖人無きを
たくま は
以て、各々其の技を逞しうし、其の材を馳せ、衆
をどろ まど ●り し
を駭かし愚を惑はし、終に李斯の残暴を開き、而
かう
て邪正倶にせらる。故に李斯の大悪、宇宙に赫
●
然とし、黄口の小児と雖も、既に能く之を知れり。
其の儒者の罪ある、誰か能く之を知らん。もし聖
人にして李斯の位に居らば、則ち必ず之を教へて
改めしめん。之を教へて改めずんば、則ち其の罪
いずく ● しひた し
を正さん。安んぞ比して之を虐ぐる斯の残暴の如
せいばう
くならんや。然れども正卯の如き者は、決して誅
を免るる能はざるなり。鳴呼、後輩徒に往昔の事
を語るを知つて、而て其の身却つて正卯の学を為
ぐ
せるを知らざるは亦た愚なり。故に学者真に志を
ふ たす
立て、以て道を行ひ理を践み、風を扶け俗を正し、
か
一に政道を助けば、則ち虎狼と雖も之を咥む能は
しか あやう
ず、況んや人をや。否らざれば則ち亦た殆いかな。
博識而叛道、雄弁而悖理、則傷風害俗、此
少正卯所以不免乎孔子之誅也、而至春秋戦
国間、不知少正卯為幾多、以唯無聖人、
各逞其技、馳其才、駭衆惑愚、終開李
斯之残暴、而邪正倶焉、故李斯之大悪、赫
然乎宇宙、雖黄口小児、既能知之、其儒者
之有罪、誰能知之、如聖人而居於李斯之位
則必教之令改、教之而不改者、則正其罪
焉、安比而虐之如斯之残暴哉、然如正卯
者、決不能免誅也、鳴呼、後輩徒知語往
昔之事、而不知其身劫為正卯之学者亦愚
也、故学者真立志、以行道践理、扶風正
俗、而一助乎政道、則雖虎狼不能咥之、
而況人乎、杏則亦殆乎哉、
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●少正卯。魯の
政を乱せし太夫
にして、孔子之
を誅す。
●李斯云々。李
斯は秦の始皇帝
の宰相、始皇を
輔けて書を焚き
儒者を穴に埋め
て殺す。之を
焚書儒といふ。
●黄口。黄吻な
どいふ、児童の
こと。
●比。一列にす
る意。
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