りやうこ
四〇 孔子は仁と謂ひ、孟子は仁義と謂ふ。両箇の
●
仁字は、同じうして異なれり。孟子の仁は、天に
在つては即ち春なり。孔子の謂はゆる仁は、則ち
● つらぬ
其れ四時を貫くの元なるか。而て春気も亦た其の
たん
分散のみ。然り而て孟子は単に仁を挙ぐれば、則
な
ち孔子の仁と亦た奚んぞ異ならんや。之を理に推
たんきよ ●
せば、則ち聖賢単挙する所の仁は即ち良知なるの
● ど
み。三子の去るや、奴となるや、死するや、孔子
は乃ち其の心の安んずる所に従ひ、以て其の徳を
全うせるを以て、終に之を仁と謂ふ。然らば則ち
良知の是非取舎は、仁にあらずして何ぞ。吾れ故
だん
に断じて曰く、仁は即ち良知と。学者之に依つて
ちか
学ばば、則ち違はざるに庶し。
孔子謂仁、孟子謂仁義、両箇仁字、同而異
矣、孟子之仁者、在天即春也、孔子所謂仁也、
則其貫四時之元也歟、而春気亦其分散耳、然
而孟子単挙仁、則与孔子之仁亦奚異哉、推
之理、則聖賢所単挙之仁、即良知也已矣、
三子之去也、奴也、死也、孔子乃以従其心之
所安、以全其徳、終謂之仁、然則良知之
是非取舎、非仁而何、吾故断曰、仁即良知、
学者依之学、則庶乎不違焉、
|
●孔子の仁は全
体の仁、孟子は
義に対して仁を
いふ、この点に
於て異なれり。
●天の春夏秋冬
は、易の上にて
元享利貞の四徳
とす、統言すれ
ば、元は四徳を
総ぶ、又四時を
貫く。
●孔子の仁と王
陽明の良知とは、
名を異にして其
実同じ。
●三子。殷末に
紂王の暴逆を悪
みて、敬子は国
を去り、箕子は
佯りて奴となり、
此干は諌死す、
孔子之を三仁と
評せること、論
語微子篇に見ゆ。
|