人 ● ちよく
五九 或、「人の生るるや直」の義を問ふ。曰く、
ぜ
良知は孝弟の是にして、而て不孝不弟の非なるを
知る。仁義の是にして、而て不仁不義の非なるを
せいぼん
知る。是れ即ち聖凡と無く一なり。故に人の生る
おのれ か
るや直なり。而て人長ずるに随つて己に克つ能は
ず、自から其の良知を欺き、而て之を致すを得ず、
●し
故に罔ゆ、罔ゆれば則ち人にあらざるなり。而て
けいりく ●かう
刑戮を免れ、以て身を全うして生く、此れ豈幸民
にあらざらんや。先王の世に在つては、則ち決し
●きやう
て郷の八刑に免るべからず。幸民たらんと欲すと
たん
雖も得んや。故に孔子幸にして免るの嘆ある所以
なるか。
或問「人之生也直」之義、曰、良知知孝弟
之是、而不孝不弟之非、知仁義之是、而不仁
不義之非、是即無聖凡一也、故人之生也直、
而人随長不能克己、自欺其良知、而不
得致之、故罔焉、罔則非人也、而免於刑
戮、以全身而生、此豈非幸民乎、在先王
世、則決不可免於郷八刑、雖欲為幸
民得乎、故孔子所以有幸而免之嘆也歟、
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●論語雍也篇に
「子曰く、人の
生るゝや直、之
を罔(誣)ひて
生ずるは、幸に
して免るなり」
とあり。
●罔。誣ひ曲げ
る。即ち不正を
為す。
●幸民。幸は倖、
僥倖にも生存す。
●郷の八刑。不
幸・不睦・不・
不弟・不任・不
恤・造言・乱民
の八刑。周官に
見ゆ。
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