●めいとく ほんりやう
六二 明徳は知の本量なり。明徳を明かにせずして
仁を行ひ義を行ふ、則ち仁にしで仁ならず、義に
●くら あやう
して義ならず、而て罔くして且つ殆し。譬へば陳
あんしつ さ ●しき/\
列の器を闇室の中に捜ぐる如し。色々在るありと
とうしよく
雖も、灯燭なきを以ての故に、之を執り得る能は
たと
ず。設ひ之を執り得るも、其の期する所なるや否
だんち しよく
やを断知する能はず。疑はん、惑はん。もし燭を
照らして之を択ばば、則ち亦た何の難きことこれ
こゝ
あらん。是を以て人は明徳を明らかにせざるべか
あ
らず。徳明かなれば衆善皆挙がる。而て其の功は
●
則ち致知・格物・誠意・正心・修身に在るなり。
あゝ
噫、気習深き者、百倍の功を用ひずして其の明を
のぞ ●じき じ ばう き
望まば、則ち遂に亦た自棄自暴に帰せん。
明徳者、知之本量也、不明明徳而行仁行
義、則仁而不仁、義而不義、而罔且殆矣、譬
如捜陳列之器於闇室中、雖有色色在焉、
以無灯燭故、不能執得之、設執得之、
不能断知其所期乎否乎、疑焉惑焉、如照
燭而択之、則亦何難之有、是以人不可不明
明徳、徳明則衆善皆挙矣、而其功則在致知格
物誠意正心修身也、噫、気習深者、不用百倍
之功而望其明、則遂亦帰乎自棄自暴矣、
|
●明徳。大学の
首章に「大学の
道は明徳を明か
にするに在り」
とあり、その明
徳は、良知の本
来の総量なり。
●論語為政篇に
「学んで思はざ
れば罔し、思う
て学ばざれば殆
し」とあり。
●色色。一々又
は歴々といふ意。
●致知以下四項
は大学八條目の
各項なり。
●自棄は、ダメ
として打ちやる。
自暴は、ヤケと
なつて乱暴する。
|