めい しん し
六三 大学の首章、明の字、親の字、止の字は、皆
せ ●
自ら責むるの功なり。もし親の字を改めて新の字
に作らば、則ち自ら責めずして之を人に責むるな
り。之を人に責むるは、則ち大学の本旨にあらざ
ぞく
るなり。而かも新は彼れに属す、彼れに属する者
は、聖人と雖も之を如何ともするなし。堯舜は聖
●
人なり、子を愛するの明徳を明らかにす。而て丹
しやうきん あへ う
朱・商均は不肖に終り而て肯て新にせず。禹は父
●こん めい さか ぞく
を愛するの明徳を明かにす、而て鯀は命に方ひ族
やぶ あへ
をるに終りて、而て肯て新にせず。周公は兄弟
●くわんしゆく さいしゆく
に友愛なるの明徳を明かにす、而て管叔・蔡叔は、
しやしよく やぶ
不軌を謀りて社稷を危うし、以て骨肉を傷り、而
●
て肯て新にせず。孔氏三世、男女室に居るの明徳
しつ
を明かにす、而て皆妻を出だす。則ち其の室各々
● をか ●
必ず七出を犯し、而て肯て新にせず。諸葛武侯は
こうしゆ ようぐ
忠の明徳を明らかにして後主に事ふ、後主庸愚に
終つて、而て肯て新にせず。是れを以て之を観れ
ば、則ち聖賢と雖も尽く之を新にする能はず。故
に新の字に作るは味なく、而て吾が道窮す。故に
曰く、大学の本旨にあらざるなりと。親の字の如
きは、則ち尤も味あり、而て実に教義の意を兼ぬ。
おも
吾れ惟ふに堯舜其の子を親しみて、而て終に天下
を丹朱・商均に伝へず、以て之を舜禹に伝ふ、是
めいしん
れ即ち真の教養の至り。豈明親の至善なるものに
●きよくし
あらずや。禹其の父を親しむ、而て死すと雖も、
きら あ
舜其の罪人の子たるを嫌はず、之を挙げて以て水
土を治めしめ、遂に子を退けて之に天子の位を授
く、而て未だ其の父を新にせざるの罪を正せるを
聞かざるなり。然らば則ち禹の大孝、舜と徳を同
じうすること、此れに在つて彼れに在らざること
じん ●さ
知るべし。周公が刃を管叔蔡叔の身にししは、
きよくこう
明徳を明らかにするの極功にあらずんば、此の如
てん
きの挙を為す能はず。而て天下の人民、皆亦た恬
然として疑はず。而も社稷を安んずるの大功を称
す、則ち平時教養の誠、天を感じ地を動かせるこ
だん
と、断じて知るべし。孔氏の室に於ける、武侯の
君に於ける、皆亦た然り。各新にせずと雖も、誰
か敢て其の徳の不明を謂はんや。故に只だ子為れ
ば則ち孝の明徳を明らかにして父に親しみ、而て
至善に止まる。臣と為れば、則ち忠の明徳を明ら
かにして君に親しみ、而て至善に止まる。新不新
を君父に責めずして、而て親しむの功夫を己に責
むれば則ち心を尽し性を尽すの大学問なり。而て
●こそう
彼の新にするも亦た其の中に在り。故に瞽夫婦
しやう じよう/\ をさ いた
及び象は、蒸蒸として乂めて姦に格らざる。皆新
くこうじよう
の如しと雖も、要するに舜が民を親しむの苦功上
より化し来るなり。
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●大学の首め三
綱領の第二に
「在親民」とあ
り、程伊川は親
は新に作るべし
といふ、朱子は
之に従ふ、王陽
明は、古本のま
まを善しとして、
親しむとよむ。
●丹朱。堯の子、
商均は舜の子。
●鯀。禹の父、
王命に方(逆)
ひ、一族を
(壊)ること書
経堯典に出づ。
●管叔。周公の
兄、蔡叔は周公
の弟。
●孔氏三世。孔
子家語王肅後序
に云ふ、孔子の
父叔梁■、子伯
魚、孫子息皆妻
毎出だす。
●七出。七去に
同じ。妻を去る
に七つの理由あ
り。即ち「不順
父母去、無手
去、淫去、妬去、
有悪疾去、口
多言去、窃
去」と大戴礼に
見ゆ。
●諸葛武侯。諸
葛亮、字は孔明、
蜀漢の劉備に仕
ふ、其の子劉禅、
後主と称す、時
に出師表あり。
●死。洪水を
治めて成らず.
書経舜典に「鯀
を羽山にす」
とあり、押しこ
めて殺す。
●。刃を腹に
刺し立てる。
●舜の父瞽、
弟象、皆悪人な
りしも、感化さ
れて、蒸々と進
み進みて.身な
治(乂)めて姦
悪に入らざりき。
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