あ ゝ ぜん ●か
六四 於乎、禅門の為めに、賢智高明の君子を駆る
しん しん ●たゝ
ものは、親を改めて新に作ること、惟だ是れ崇れ
るなり。何となれば賢智高明の人、大学の道を学
ふ
べば、則ち必ず其の言を践んで以て之を行はんと
ふはく
欲す、豈浮薄の徒が、訓詁誦読に従事して以て句
しんとく
釈章解し、而て躬行心得なきが如くならんや。故
に其の明徳を明かにし、其の父の旧染宿態新にせ
んと欲し、而て父自若として新ならず。其の子の
きうせんしゆくたい じじやく
旧染宿態を新にせんと欲し、而て子自若として新
ならず。君臣なり、夫婦なり、兄弟なり、亦た復
た然り。然りと雖も賢智高明の人、仁を求め仁を
うと
利す、故に贈之を疎んずるを欲せず、夜以て日に
つ こうく ひらう
継ぎ、之を新にするの功を思ひ、攻苦疲労し、而
かも其の新ならざるに終る。則ち吾が徳と実に氷
おのれ み いさぎよ
炭黒白の如し。是に於てか、己の躬を潔くするの
念を起さざるを得ず。故に父子君臣夫婦兄弟の恩
さ ●こんしゆ か はし
と義とを割いて、首して衣を換へて、禅門に趨
●しきくう るゐ だつ
り、色空の道を学びて、其の累始めて脱然たり。
●いけう おちい
而て其の身夷教に陥るを知らず、豈悲しむべきに
か ふはく と
あらずや。夫の浮薄の徒の若きは、則ち書を読み
理を知ると雖も、固より躬行に意なし、是れを以
●こ した あやま
て其の口を糊するのみ。故に只だ民を親しむは誤
ぜ
りにして、而て民を新にするは是なりと曰ひ、而
ていけん ●さうどう ふ
て心に定見なし。要するに勦同の腐を免るるを得
こ しん
ざるなり。謂ふ試みに之を躬行せよ、乃ち其の親
しん だん かう
と新との是非は、断然明白ならん。只だ幸とする
ぜ
所は、陽明子民を親しむを以て是と為し、猶之を
しやく
釈して曰く、教養の意を兼ぬと。而て高明の君子、
がくみやく え
始めて五帝三王の学脈を得、是れに由つて学ばば、
ぜんもん はし しんるゐ
則ち禅門に趨らずと雖も、決して心累なし。故に
りん ● ●
大倫を離れずして離れ、離れて離れず、造を其の
せいもん
間に行ふを得。豈聖門の大功にあらざらんや。豈
にんげん
人間の大幸にあらざらんや。
於乎、為禅門駆賢智高明之君子者、改親
作新、惟是崇也、何者、賢智高明之人、学大
学之道、則欲必践其言以行之、豈如浮薄
之徒、従事訓話誦読、以句釈章解、而無躬
行心得哉、故明其明徳、欲新其父之旧染
宿態、而父自若不新、欲新其子之旧染宿態、
而子自若不新、君臣也、夫婦也、兄弟也、亦
復然、雖然賢智高明之人、求仁利仁、故猶不
欲疎之、夜以継日、思新之之功、攻苦疲
労、而其終乎不新、則与吾徳実如氷炭黒白、
於是乎不得不起潔己躬之念、故割父子
君臣夫婦兄弟之恩与義、首換衣、趨於禅門、
学色客之道、其累始脱然矣、而不知其身陥
乎夷教、豈非可悲乎、若夫浮薄之徒、則雖
読書知理、固無意躬行、以是糊其口而
已、故只曰親民誤而新民是也、而心無定見、
要不得免於勦同之腐也、謂試躬行之、乃
其親新之是非、断然明白矣、只所幸陽明子以
親民為是、猶釈之曰、兼教養意、而高明之
君子、始得五帝三王之学脈焉、由是学則雖
不趨於禅門、決無心累矣、故不離大倫
而離、離而不離、得行道于其間、豈非聖門
之大功哉、豈非人間之大幸哉、
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●駆。禅門の方
へ逐ひやる。
●崇。禍がたゝ
る。
●首。頭を円
くする、衣を換
へるは袈裟を着
るの意。
●「色即是空、
空即是色」般若
経に見ゆ。
●夷教。印度の
教。
●糊。糊口即ち
生括の資料。
●勦同の腐。勦
は他人の説を盗
みとる、同は附
和雷同する、腐
は陳腐。
●離れずして離
れ、躬行に意な
き浮薄の徒。
●離れて離れず。
陽明子の説に依
つて正道に復る
高明の君子。
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