山田準『洗心洞箚記』(本文)210 Я[大塩の乱 資料館]Я
2010.9.27

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『洗心洞箚記』 (本文)

その210

山田 準訳註

岩波書店 1940 より



◇禁転載◇

下 巻訳者註

    あ ゝ   ぜん               六四 於乎、禅門の為めに、賢智高明の君子を駆る      しん       しん          たゝ  ものは、親を改めて新に作ること、惟だ是れ崇れ  るなり。何となれば賢智高明の人、大学の道を学               べば、則ち必ず其の言を践んで以て之を行はんと       ふはく  欲す、豈浮薄の徒が、訓詁誦読に従事して以て句           しんとく  釈章解し、而て躬行心得なきが如くならんや。故  に其の明徳を明かにし、其の父の旧染宿態新にせ  んと欲し、而て父自若として新ならず。其の子の  きうせんしゆくたい           じじやく  旧染宿態を新にせんと欲し、而て子自若として新  ならず。君臣なり、夫婦なり、兄弟なり、亦た復  た然り。然りと雖も賢智高明の人、仁を求め仁を          うと  利す、故に贈之を疎んずるを欲せず、夜以て日に                 こうく ひらう  継ぎ、之を新にするの功を思ひ、攻苦疲労し、而  かも其の新ならざるに終る。則ち吾が徳と実に氷               おのれ  み いさぎよ  炭黒白の如し。是に於てか、己の躬を潔くするの  念を起さざるを得ず。故に父子君臣夫婦兄弟の恩         こんしゆ        か           はし  と義とを割いて、首して衣を換へて、禅門に趨    しきくう         るゐ      だつ  り、色空の道を学びて、其の累始めて脱然たり。       いけう  おちい  而て其の身夷教に陥るを知らず、豈悲しむべきに        か   ふはく   と  あらずや。夫の浮薄の徒の若きは、則ち書を読み  理を知ると雖も、固より躬行に意なし、是れを以                  した     あやま  て其の口を糊するのみ。故に只だ民を親しむは誤                  りにして、而て民を新にするは是なりと曰ひ、而     ていけん      さうどう  ふ  て心に定見なし。要するに勦同の腐を免るるを得                      しん  ざるなり。謂ふ試みに之を躬行せよ、乃ち其の親   しん           だん         かう  と新との是非は、断然明白ならん。只だ幸とする                  所は、陽明子民を親しむを以て是と為し、猶之を しやく  釈して曰く、教養の意を兼ぬと。而て高明の君子、          がくみやく え  始めて五帝三王の学脈を得、是れに由つて学ばば、    ぜんもん  はし         しんるゐ  則ち禅門に趨らずと雖も、決して心累なし。故に   りん          大倫を離れずして離れ、離れて離れず、造を其の          せいもん  間に行ふを得。豈聖門の大功にあらざらんや。豈  にんげん  人間の大幸にあらざらんや。   於乎、為禅門賢智高明之君子者、改親   作新、惟是崇也、何者、賢智高明之人、学大   学之道、則欲必践其言以行之、豈如浮薄   之徒、従事訓話誦読、以句釈章解、而無躬   行心得哉、故明其明徳、欲其父之旧染   宿態、而父自若不新、欲其子之旧染宿態、   而子自若不新、君臣也、夫婦也、兄弟也、亦   復然、雖然賢智高明之人、求仁利仁、故猶不   欲之、夜以継日、思之之功、攻苦疲   労、而其終乎不新、則与吾徳実如氷炭黒白、   於是乎不己躬之念、故割父子   君臣夫婦兄弟之恩与義、首換衣、趨於禅門、   学色客之道、其累始脱然矣、而不其身陥   乎夷教、豈非悲乎、若夫浮薄之徒、則雖   読書知理、固無躬行、以是糊其口而   已、故只曰民誤而新民是也、而心無定見、   要不於勦同之腐也、謂試躬行之、乃   其親新之是非、断然明白矣、只所幸陽明子以   親民為是、猶釈之曰、兼教養意、而高明之   君子、始得五帝三王之学脈焉、由是学則雖   不於禅門、決無心累矣、故不大倫   而離、離而不離、得道于其間、豈非聖門   之大功哉、豈非人間之大幸哉、



駆。禅門の方
へ逐ひやる。

崇。禍がたゝ
る。



























首。頭を円
くする、衣を換
へるは袈裟を着
るの意。

「色即是空、
空即是色」般若
経に見ゆ。

夷教。印度の
教。

糊。糊口即ち
生括の資料。


勦同の腐。勦
は他人の説を盗
みとる、同は附
和雷同する、腐
は陳腐。








離れずして離
れ、躬行に意な
き浮薄の徒。

離れて離れず。
陽明子の説に依
つて正道に復る
高明の君子。


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