しん ●さうしよう ぎ
六五 親の字は、父母の双称にして、而て義甚だ重
● やまひ
し。夫れ父母の子に於けるや、唯だ其の疾をこれ
● あた
憂ふ。心誠に之を求むれば、中らずと雖も遠から
●ぎ ぎあん
ず。皆実心に子を愛するの誠にして、而て擬議安
ぱい
排を仮つて然るにあらざるなり。然り而て子の父
したが
母を養ひ、臣の君に仕へ、婦の夫に順ひ、弟の兄
うやま つか
を敬ひ、君の民を使ふ。欲あれば則ち彼此相隔た
つうやうきかん
り、痛癢饑寒身に切なるが如くなる能はず。皆是
れ不仁にして而て父母の心なき者なり。もし真に
良知を致さば、則ち亦た惟だ其の疾をこれ憂ひ、
心誠に之を求むるの外更に道無し。而て厚薄軽重
を親疎遠近の間に存すと雖も、要するに天下皆吾
が仁に帰するなり。故に陽明子曰く、「民を親し
いつく ●たいてふ
むは民を仁しむなり。人もし能く之を体貼すれば、
則ち親の字は決して新の字に作るべからず」と。
もくしき しんご
是れ乃ち黙識すべし、心悟すべし。
親字、父母之双称、而義甚重矣、夫父母之於
子也、唯其疾之憂、心誠求之、雖不中不遠
矣、皆実心愛子之誠、而非仮擬議安排然
也、然而子之養父母、臣之仕君、婦之順夫、
弟之敬兄、君之使民、有欲則彼此相隔、不
能如痛癢饑寒切乎身、皆是不仁、而無父
母之心者也、如真致良知、則亦惟其疾之憂
心誠求之之外、更無道矣、而雖存厚薄軽重
於親疎遠近之間、要天下皆帰吾仁也、故陽
明子曰、「親民仁民也、人如能体貼之、則
親字決不可作新字、」是乃可黙識矣、可
心悟矣、
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●双称。父母の
双方を称す。
●論語為政篇に
見ゆ。
●心誠に云々。
大学に出づ。
●擬議安排。想
定や手加減。
●体貼。我が身
に引きあてる。
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