みん はくらい じよじ
七五 明亡びてこのかた、舶来せる易経註釈の叙次、
おほむね● ほんぎ でん さきだ
大率朱子の本義は程子の伝に先ち、程子の伝は朱
おく ● ぎやくざ ●たうかう
子の本義に後る、是れ即ち師弟逆坐し父子倒行す
あゝ しん ●
るものなり。吁、清人数を貴びて理を貴ばざるの
へい ゐ
情見るべし。而て数を貴ぶの弊は、乃ち君父を遺
き おもむ
棄して、其の難に趨かざるに至る。理を貴べば則
とも ● と
ち君臣の義、父子の恩、与に心に解くべからず。
●ひるい ふはい
是を以て遺棄するに忍びずして、而て非類の腐敗
かれ
を食はざる者必ず出でん。故に他数を貴びて理を
●ぎ ぶん
貴ばざる、亦た宜ならずや。然れども学人羲・文・
しう こう そむ
周・孔の聖旨に背かざるを要せば、則ち宜しく理
い い
を貴びて数を道はざるべし。理を貴びて数を道は
ざれば、則ち宜しく先づ程伝を治め、然る後朱義
そむ
を読むべきなり。此れ特に四聖人の旨に背かざる
こひねが
のみにあらず、朱子と雖も亦た必ず是を冀はんも
のなり。
明亡矣来、舶来易経註釈之叙次、大率朱子本義
先程子伝、程子伝後朱子本義、是即師弟逆
坐父子倒行者也、吁、清人貴数而不貴理之
情可見矣、而貴数之弊乃至於遺棄君父、
而不趨其難矣、貴理則君臣之義、父子之
恩、不可与解於心是以不忍遺棄、而不
食非類之腐敗者必出焉、故他貴数而不貴
理、不亦宜乎、然学人要不背於羲文周孔
之聖旨、則宜貴理而不道数矣、貴理而不
道数、則宜先治程伝、然後読朱義也、此
非特不背四聖人之旨雖朱子亦必冀是者
也矣、
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●易経について、
朱子の註釈を本
義といひ、程伊
川の註釈を伝と
いふ。
●師弟云々。程
伊川は先輩にし
て、時代も旧る
し、朱子は南宋
に出で、間接に
程子を師とす。
●数を貴ぶ云々。
朱子の易を説く
や象数を主とす、
程子の易を説く
や義理な主とす、
清人象数を貴ぶ、
故に朱子を前に
置く。
●心に云々。前
項荘子の語に本
づく。
●非類。暗に清
朝を指す、腐敗
は禄をいふ。
●羲文周孔。易
は伏羲八卦を尽
し、文王彖辞を
述べ、周公爻辞
を述べ、孔子十
翼を作る、之を
四聖人といふ。
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