山田準『洗心洞箚記』(本文)224 Я[大塩の乱 資料館]Я
2010.10.22

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『洗心洞箚記』 (本文)

その224

山田 準訳註

岩波書店 1940 より



◇禁転載◇

下 巻訳者註

     七九 或「梁の恵王曰く、寡人の国に於けるやの章」                      の義を問ふ。曰く、恵王の心を尽すは、後章の其  の心を尽す者は其の性を知るなりとの心を尽すと、          字同じくして旨異なれり。もし先づ之を弁ぜずし  て、而て一章の義を解かば、則ち無数の言語を費  し、而て天理人欲、終に分暁する能はざるなり。                 夫れ恵王の心を尽すは、即ち人心を尽すものなり。  人心は便ち是れ人欲にして而て不仁なり。恵王戦  を好むの心は、乃ち人欲の中尤も不仁なるものな                     きみん  てん  り。人欲の中尤も不仁の心を尽し、而て飢民を転  せん         けいかう      おのれ  遷し、以て其の多少せ計較す、要するに己が一身   こや       どくらく  を肥し、而て独楽を極めんと欲するものなり。盗      なん  賊の心と奚ぞ以て異ならんや。是の故に終に其の    びらん         か      じゆん  民を靡爛し、子弟を駆りて以て之に殉ず。是れ皆  其の人心を尽す上より来る、然らば則ち人心を尽     だんぜつ  すは、断絶せざるべからざるなり。聖賢の心を尽         すは、即ち道心を尽すものなり。道心は便ち是れ                したが  天理にして仁なり。真に天理に率へば、則ち父に  事へて孝、兄に事へて弟なり。其の孝弟の心を一  国に推せば、則ち一国の人其の教化に服し、而て             つひ   入つては孝、出ては弟、卒に五十帛を衣、七十肉      はんぱく  ふたい  を食ひ、頒白は負戴せざるの仁化に至る。而て又  ぎよべつ      び        おんぱ  よく  魚鼈草木の微も、其の恩波に浴せざるなし。是れ  皆道心を尽す上より来る。然らば則ち道心を尽す  は、勉強せざるべからざるなり。而て人心を尽す   けん             かう  の験乃ち彼の如く、道心を尽すの效即ち此の如し。   あ ゝ      わづか          わか  磋夫、初め纔に源を一心に岐つ、而て治乱を国家        せうじやう          じやう/\  に致す、実に霄壌の如し。孟子王道を以て諄諄と    せいりよう  して斉梁の君に告ぐ、此を以てにあらざらんや。     どく  つゝ       あら  後の人独を慎しみ心を洗はずして、而て徒に心を          たいてい        あやふ  尽すと云ふ。則ち大抵其の人心の危きものを尽し                 りんしよ  て以て是と為し、而て道心の微、日に淪胥して以           ほこ  て亡ぶ。而も猶世に誇つて曰く、我れ善く吾が心         もと  を尽すと、亦た左らずや。   或問梁恵王曰寡人之於国也章之義、曰、恵   王之尽心、与後章尽其心者、知其性也之   尽心、字同而旨異、如不先弁之、而解一章   之義、則費無数之言語、而天理人欲、終不   能分暁也、夫恵王之尽心、即尽人心者也、   人心、便是人欲而不仁也、恵王好戦之心、乃   人欲中尤不仁者也、尽人欲中尤不仁之心、而   転遷飢民、以計較其多少、要欲己一身   而極独楽者也、与盗賊之心奚以異哉、是故   終靡爛其民、駆子弟以殉之、是皆自   其人心来、然則尽人心、不断絶   也、聖賢之尽心、即尽道心者也、道心、便   是天理而仁也、真率天理、則事父孝、事兄   弟、推其孝弟之心於一国、則一国之人服其   教化、而入孝出弟、卒至於五十衣帛、七十   食肉、頒白不負戴之仁化、而又魚鼈草木之   微、莫其恩波焉、是皆自道心   来、然則尽道心、不勉強也、而尽   人心之験乃如彼、尽道心之效即如此、嗟   夫、初纔岐源於一心、而致治乱於国家、実   如霄壌、孟子以王道諄諄告斉梁之君、不   以此乎、後之人不独洗心、而徒尽心云、   則大抵尽其人心危也者以為是、而道心之微、   日淪胥以亡矣、而猶誇世曰、我善尽吾心、   不亦左乎、


孟子、梁恵王
篇に見ゆ。

後章。孟子尽
心篇上。








人心。人心惟
危の人心にて、
欲心なり。











靡爛。とらか
し、たゞらす。





道心。道心惟
微の道心にて、
本性の心なり。





孟子梁恵王篇
に出づ。

頒白云々。白
髪の半ば雑れる
老人は、重き物
を負ひ又は頭に
戴せなどして、
労役に従事せず。







霄壌。天地の
相違。






淪胥。胥は相
(あひ)なり、
相共に沈(淪)
み亡ぶ。

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