山田準『洗心洞箚記』(本文)232 Я[大塩の乱 資料館]Я
2010.10.29/10.31修正

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『洗心洞箚記』 (本文)

その232

山田 準訳註

岩波書店 1940 より



◇禁転載◇

下 巻訳者註

   かん       ひろ             じん 八六 韓子曰く、博く愛する、之を仁と謂ふ。行う     よろ             ぎ  て之を宜しうする、之を義と謂ふ。是れに由つて   ゆ                おのれ         ま  之く、之を道と謂ふ。己に得て外に待つなき、之             ていめい       きよ  を徳と謂ふ。仁と義とは定名たり、道と徳とは虚    位たり」と。夫れ人心の仁は、天に在つては春と                      為す、礼かねて其の中に在り。故に別に礼を謂は  ず。人心の義は、天に在つては秋となす。智かね  て其の中に在り、故に別に智を謂はず。然らば則  ち人心の仁義礼智は、即ち天の春夏秋冬なり。而     いよく  て人意慾あれば則ち仁義亡ぶ。而て意慾を去れば、      つゝが  則ち仁義恙なくして、而て方寸の心に存す。其の        之を外に践むや、則ち人道の常なり、故に之を道          つゝ  と謂ふ。之を内に蘊むや、則ち天命の貴なり、故  に之を徳と謂ふ。要するに太虚に帰するものにあ       いづく           ぜんび  らざれば、安んぞ能く其の仁義道徳の全美を保つ                つ           げう  を得んや。故に韓子此の文に継いで曰く、「堯は         しゆん              是れを以て之を舜に伝へ、舜は是れを以て之を禹               たう  に伝へ、禹は是れを以て之を湯に伝へ、湯は是れ  を以て之を文武周公に伝ふ。文武周公は之を孔子           まうか  に伝へ、孔子は之を孟軻に伝ふと云ふ」と。夫れ        八聖一賢、其の気浩然たれば、則ち孟子は既に太           われ  虚と一なり。天徳を予に生ずと、則ち孔子は固よ        らう    こ  ふ    すなは         つま  り太虚なり。狼其の胡を跋み、載ち其の尾にづ     せきふ  ゆづ    せきせきき き  く、公碩膚を孫り、赤几几たりと。流言の禍に               しんるい  遭ふと雖も、嘗て此れを以て心累となさず、則ち  周公も亦た固より太虚なり。文武禹湯堯舜、言は  ずして皆其の太虚たること知るべし。昔人謂ふ、  韓子文を学んで以て道を見ると。然れども其の識              ちやくでん    ちか  既に此に至る、則ち聖学の嫡伝血脈に庶き者なる  か。   韓子曰、「博愛之謂仁、行而宜之之謂義、   由是而之焉之謂道、得於己於外之   謂徳、仁与義為定名、道与徳為虚位、」   夫人心之仁、在天為春、礼該在其中、故   不別謂礼、人心之義、在天為秋、智該在   其中、故不別謂智、然則人心之仁義礼智、   即天之春夏秋冬也、而人有意慾則仁義亡矣、   而去意慾則仁義無恙、而存乎方寸心、其   践之乎外也、則人道之常、故謂之道、蘊   之乎内也、則天命之貴、故謂之徳、要非   帰乎太虚、安能得其仁義道徳之全美   也哉、故韓子継此文曰、「堯以是伝之舜、   舜以是伝之禹、禹以是伝之湯、湯以是   伝之文武周公、文武周公伝之孔子、孔子   伝之孟軻云、」夫八聖一賢、其気為浩然、   則孟子既与太虚一也、天生徳於予也、則   孔子固太虚也、狼跋其胡、載其尾、公   孫碩膚、赤几几、雖流言之禍、嘗   不此為心累、則周公亦固太虚也、文武   禹湯堯舜、不言而皆其為太虚知矣、昔   人謂韓子学文以見道、然其識既至此、則   庶乎聖学之嫡伝血脈者也歟、


韓子。唐の韓
愈、前出、其の語、
原道の文に出づ、
文章規範に載る。


虚位。道と徳
とは、儒の道と
徳とあれば、又
た老子の道と徳
もあり、一定せ
ず、故に虚位と
いふ。

礼を謂はず云
々。韓子が、仁
と義とを挙げて、
礼と智とを省け
るを説明す。
















八聖一賢。前
述の孟子を一賢
とし、其余の八
人を八聖とす。

孟子曰ふ「吾
能く我が浩然の
気を養ふ」

天徳云々。論
語述而篇に見ゆ。

狼其云々。詩
経風狼跋篇の
語、周公が讒口
流言に遭ひて常
度を失はざりし
を褒む、跋はふ
む、胡は頷の下
の垂れた肉、
はつまづく、公
は周公、孫は譲
る、碩は大、膚
は美、は履、
几々は安重の姿、
狼の進退共に困
める如く、周公
は危難に遭ひ、
大に美はしき平
素の徳業を他に
譲りて、礼履を
つけおちついて
居るとなり。


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