九七 大程子曰く、「心を尽し性を知るは、知の至
りなり。知の至りは、則ち心は即ち性、性は即ち
天、天は即ち性、性は即ち心なり。天を生み地を
くわいく
生み万物を化育する所以なり。其の次は則ち心を
存し性を養ひ、以て天に事ふ」と。謹みて按ずる
●
に、程子の此説は、葢し孟子の尽心の章を解する
なり。夫れ心を尽し性を知り、而て天を生み地を
生み万物を化育するに至るは、則ち聖人の事にし
て、而て決して学者分上の事にあらざること、断
●か
じて知るべし。然れども朱註は尽心首章を以て下
がく ● ことうけう しよ
学に属す、故に陽明子顧東橋に答ふる書に、之を
べん しうしつ ていご
弁ずること周悉なり。固より朱註と牴牾す。朱註
●そ ご おくだん
又た程説と齟齬す。吾が輩其の是非を臆断する能
はずと雖も、然れども程説を以て主となさば、則
ち陽明子の説は、即ち程説に本づいて、而て特に
●
敷衍せるのみ。其の創説にあらざるなり。此等の
処、学問の大緊要なり。故に吾が党の学人、朱註
の外別に程説あるを知らざるべからざるなり。故
かく
に程説を挙げて之を説くこと此の如し。
大程子曰、「尽心知性、知之至也、知之至、
即心即性、性即天、天即性、性即心、所以生
天生地化育万物、其次則存心養性、以事
天」、謹按、程子此説、葢解孟子尽心章也、
夫尽心知性、而至於生天生地化育万物、
則聖人之事、而決非学者分上之事、断可知
矣、然朱註以尽心首章属下学、故陽明子
答顧東橋書、弁之周悉矣、固与朱註牴牾、
朱註又与程説齟齬、吾輩雖不能臆断其是
非也、然以程説為主、則陽明子之説本程
説、而特敷衍焉耳、非其創説也、此等処、
学問大緊要也、故吾党之学人、不可不知朱
註之外、別有程説也、故学程説説之如此、
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●孟子七篇の最
後に尽心篇あり、
其の首章の尽心
等につき、朱子
と王子との解釈
は全く離反す、
●下学。初学の
修行。
●此の書伝習録
中巻に載る。
●齟齬。歯が喰
ひちがふことに
て、所説など合
致せぬ意に用ふ。
●敷衍。引きの
ばして、詳しく
註釈すること。
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