一一一 張子曰く、「学を為すの大益は、自から気
しか
質を変化するを求むるに在り。爾らずんば則ち皆
● つひ
人の為めにするの弊にして、卒に発明する所なく、
おう
聖人の奥を見るを得ず」と。張子独り能く太虚を
みづ
了悟するは、亦た只だ自から其の気質を変化せる
けんじつ ● およ こ ひ
の験実なるのみ。二程を見るに比び、即ち虎皮を
てつ や かくきしようしん たれ
撤して講を輟む、此れ客気勝心ある者にして孰か
くふう こゝ
之を能くせんや。其の気質を変化せるの功夫は是
に於て推すべし。故に吾が輩は、心の本体、謂は
ゆる至善、謂はゆる中、謂はゆる太極といふもの
●しやうえい
を見んことを要せば、則ち障翳する所の気質は、
とがく
宜しく先づ之を変化すべし。然らずんば則ち徒学
くうだん いづく ● ●
空談のみ、焉んぞ其の一斑を窺ひ得んや。而て呂
●み
東莱先生論語の躬自から厚うするの章を誦し、忽
●ふんちくわんぜん ひようしやく ●
ち平時の忿渙然として氷釈するを覚え、元の楊
●さいよ ひるい
武子幼より論語を読み、宰予昼寝ぬの章に至り、
慨然として志を立つるあり、是れに由つて終身疾
えんぐわ
病にあらざれば未だ嘗て偃臥せざりしの類、皆能
く気質を変化すと謂ふべし。
張子曰、「為学大益、在自求変化気質不
爾則皆為人之弊、卒無所発明、不得見
聖人之奥、張子独能了悟太虚亦只自変化
其気質之験実也已矣、比見二程、即撤虎
皮輟講、此有客気勝心者、而孰能之哉、
其変化気質之功夫、於是可推矣、故吾輩
要見心之本体、所謂至善、所謂中、所謂
太極者、則所障翳之気質、宜先変化之、
不然則徒学空談、焉窺得其一班也、而呂東
莱先生誦論語躬自厚章、忽覚平時忿渙然
氷釈、元楊武子幼読輪語、至宰予昼寝章、
慨然有立志、由是終身非疾病未嘗偃臥
之類、可謂皆能変化気質矣、
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●論語に「今の
学者人の為めに
す」とあり。
●張子が程子兄
弟を見るに及び
己れ及ばざるを
覚り虎皮を取り
去つた、虎皮は
比ともいひ、
師の席なり。
●障翳。邪魔、
妨げ。
●一斑。あらま
し、大概。
●呂東莱。宋の
呂祖謙、朱子と
共に近思録を編
す。
●衛霊公篇に出
づ。
●忿渙然云々。
怒りがさつばり
ととけてしまふ。
●楊武子。未だ
検出せず。
●公冶長篇に見
ゆ。
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