山田準『洗心洞箚記』(本文)262 Я[大塩の乱 資料館]Я
2010.12.14

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『洗心洞箚記』 (本文)

その262

山田 準訳註

岩波書店 1940 より



◇禁転載◇

下 巻訳者註

             人 うさう       しん 一一二 司馬温公曰く、「或迂叟に問ふ、神に事ふ                るやと、曰く神に事ふと。或曰く、何の神にかこ  れ事ふるやと、曰く、其の心に事ふと。或曰く、                       しよ  其の之に事ふること何如と、曰く、至簡なり、黍  しよく    ぎせい       た  あざむ  稷せず、犠牲せず、惟だ欺かざるをこれ用と為す。     かみ     いたゞ   しも      ふ           つゝ  君子は上は天を戴き、下は地を履み、中は心を函  む、之を欺かんと欲すと雖も其れ得んや」と。又  た曰く、「迂叟の親に事ふる、以て人に踰ゆる無  し、能く欺かざるのみ。其の君に事ふるも亦た然  り」と。此れを以て之を観れば、則ち公の学術、       しんどく  亦た大学の慎独上より来れること知るべし。而て      つゝ  中は心を函むの三字は誠に味あるかな。夫れ心の  神は他にあらず、太虚一団の霊気人の方寸に入る                      つゝ  ものにして、孟子の謂はゆる良知なり。其の函む  とは葢し之を指すなり。之に事ふるの実は、只だ                       すなは  其の知を欺かざるのみ。其の知を欺かざるは、便       つか  ち是れ天に事ふるなり。天は即ち人、人は即ち天、                 あん くわんびん  一に通じて二なきの義なり。公は暗に関の諸賢       かんぱ        どくち  と共に之を看破す、故に独知を欺かざるの実功を         むばうせい          つか  積みて、以て无妄誠一の地に至り、君父に事ふる         れうぞく  も是に於てし、僚属に接し弟子に教ゆるも是に於       つうがん    しよぎ               こ  てす、著書通鑑の如く、書儀の如きと雖も、皆這  の一誠より流出し来る。故に後の公の書を看るも                 まんじ  の、公の心学を知らずして、而て漫爾に之を読ま              りうたう   かへ  ば、則ち通鑑を好む者は、流蕩して返らず、書儀         きよくせき  を治むる者は、跼蹐して大ならず、此に至ちば則        ち公の意荒さむ。吾人宜しく謹んで之を学ぶべし。         其の余公の格物論は、之を三復して可なり。後儒  駁論する者多しと雖も、然かれども初学之を読み              ふ き しんどく  て其の意を獲ば、則ち大に不欺慎独の学に益せん。   司馬温公曰、「或問迂叟、事神乎、曰、事   神、或曰、何神之事、曰、事其心、或曰、其   事之何如、曰、至簡矣、不黍稷、不犠牲、   惟不欺之為用、君子上戴天、下履地、中函   心、雖之其得乎、」又曰、「迂叟事親、   無以踰人、能不欺而已矣、其事君亦然」、   以此観之、則公之学術、亦従大学慎独上来   可知矣、而中函心之三字、誠有味哉、夫心之   神、非他、太虚一団霊気入人方寸者、孟子   所謂良知也、其函者、葢指之也、事之之実、   只不其知而已矣、不其知、便是事天   也、天即人、人即天、通一無二之義、公暗与   関諸賢共看破之、故積独知之実   功、以至无妄誠一之地、事君父是、接   僚属弟子是、雖著書如通鑑書儀、   皆従這一誠流出来、故後之看公書者、不   公之心学、而漫爾読之、則好通鑑者、流蕩   而不返、治書儀者、跼蹐而不大、至此則公   之意荒矣、吾人宜謹学之、其余公之格物論、   三復之可也、後儒駁論者雖多、然初学読之   而獲其意、則大益于不欺慎独之学


司馬温公。宋
の名臣司馬光、
温公に封せらる、
資治通鑑を著は
す、自ら迂叟と
称す。

黍稷を供せず、
犠牲を供せず、
惟だ神を欺かぬ
こと、神を欺か
ざるは一面自己
を欺かざる所以
である。







大学誠意の條
に「故に君子必
ず其独を慎し
む」とあり。



良知良心の字
は孟子に始めて
見え後王陽明之
を祖述す。





。関は関
中のことにして
張横渠を指し、
は福建のこと
にして、朱子を
指す。


書儀。温公の
著。


漫爾。漫然ぼ
んやりと。

流蕩。歴史に
溺れ耽る。

跼蹐。規則に
拘束され小さく
なる。

格物論。論文
の名、温公の集
に出づ。


『洗心洞箚記』(本文)目次/その261/その263

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