人
五四 或曰く、経に於て明らかに虚を言ふこと、有り
●
やと。曰く、有り。大学に曰く、其の心休休として、
ぎ
それ容るる有るが如し。人の技ある、己れこれ有る
●げんせい ●
如く。人の彦聖なる、其の心之を好みす、啻に其の
まこと
口より出だすが如くなるのみならず、寔によく之を
い
容ると。此の両個の容の字は、心の量なり。心の量
●
は太虚にあらずして何ぞ。中庸に曰く、大を語れば
● こと
天下よく載するなしと。又た曰く、上天の載は、声
なく臭なし、至れりと。其の大や、至や、これ太虚
●
にあらずして何ぞ。孔子曰く、君子器ならずと。又
● ● い
た曰く、吾が道一以て之を貫くと。子四を絶つ、意
な ひつな こ な が な ●
毋し、必毋し、固毋し、我毋しと。子曰く、我れ知
ひ
るあらんか、知るなし。鄙夫あり我れに問ふ、空空
如たり、我れ其の両端を叩いて竭すと。又た曰く、
● ちか しば\/ ●
回やそれ庶いか、屡 空しと。又た曰く、天何をか言
はんや、四時行はれ百物生ず、天何をか言はんやと。
其の器ならざるや、一や、四を絶つや、空空や、屡
空しきや、天何をか言はんや、これ皆太虚にあらず
●
して何ぞ。孟子曰く、我れ善く吾が浩然の気を養ふ
と、其の浩然なるものは、太虚にあらずして何ぞ。
而て易・書・詩・礼・春夏亦た其の至るに及んでは、
則ち皆太虚の徳に外ならなるざりなり。易に曰く、
● は したが この
太極、書に曰く、偏無く陂なく、王の義に遵へ。好
な にく
みを作す有るなく、王の道に遵へ。悪みを作す有る
たう たう\/
なく、王の路に遵へ。偏無く党無く、王道蕩蕩たり。
へい\/ ●はん そく
党無く偏無く、王道平平たり。反無く側無く、王道
●
正直。其の有極に会し、其の有極に帰すと。詩に亦
こと せい しう ●
た曰く、上天の載、声無く臭無しと。礼に曰く、無
●
声の楽、無体の礼と。春秋に曰く、春王の元年と。
其の太極や、有極や、声臭なきや、声体なきや、元
や、此れ皆亦た太虚にあらずして何ぞ。これ凡そ挙
ぐる所、経の明徴なり。子猶之を疑ふや。鳴呼太虚
めう げんじゆつ
の は言述すべからざるものなり。然り而て理気合
一をさとれば、則ち太虚も亦た惟だ理気のみ。もし
理気を離れて太虚を言はば、四書五経聖人の道にあ
らざるなり。学者宜しく之を知るべし。
或曰、於 経明言 虚、有乎、曰、有、大学曰、其
心休休焉、其如 有 容焉、人之有 按、若 己有 之、
人之彦聖、其心好 之、不 啻若 自 其口 出 、寔能
容 之、此両箇容字、心之量也、心之量、非 太虚
而何、中庸曰、語 大天下莫 能載 焉、又曰、上天
之載、無 声無 臭至矣、其大也、至也、此非 太虚
而何、孔子曰、君子不 器、又曰、吾道一以貫 之、
子絶 四、母 意、母 必、母 固、母 我、子曰、我
有 知乎哉、無 知也、有 鄙夫 問 於我 、空空如也、
我叩 其両端 而竭焉、又曰、回乎其庶乎屡空、又
曰、天何言哉、四時行焉、百物生焉、天何言哉、
其不 器也、一也、絶 四也、空空也、屡空也、天
何言也、此皆非 太虚 而何、孟子曰、我善養 吾浩
然之気 、其浩然也者、非 太虚 而何、而易書詩礼
春秋亦及 其至 也、則皆不 外 於太虚之徳 也、易
曰、太極、書曰、無 偏無 陂、遵 王之義 、無 有
作 好、遵 王之道 、無 有 作 悪、遵 王之路 、無
偏無 党、王道蕩蕩、無 党無 偏、王道平平、無 反
無 側、王道正直、会 其有極 、帰 其有極 、詩亦
曰、上天之載、無 声無 臭、礼曰、無声之楽、無
礼之礼、春秋曰、春王元年、其太極也、有極也、
無 声臭 也、無 声礼 也、元也、此皆亦非 太虚 而
何、此凡所 挙、経之明徴也、子猶疑 之乎、鳴呼、
太虚之 、不 可 言述 者也、然而了 理気合一 、
則太虚亦惟理気焉耳、如離 理気 、而言 太虚 者、
非 四書五経聖人之道 也、学者宜 知 之、
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●休々。寛容の
貌。
●彦聖。善土の
称。
●啻に云々。口
で褒める以上。
●大を云々。載
せる物が無い程
大きい、中庸の
第十二章に見ゆ。
●上天云々。載
は事なり、詩経
大雅文王篇に見
ゆ。
●論語、為政篇。
●里仁篇。
●子罕篇。
●同上。
●先進篇。
●先進篇。
●孟子公孫丑上
篇。
●繋辞篇。
●洪範篇 偏も
陂もかたよる。
●反側。かたむ
く。
●有極。道の奥
極。
●無声云々。礼
記、孔子間居篇。
●春王。春秋巻
首。
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