いん あま けん だつ
五九 吾れ既に職を辞して隠に甘んじ、険を脱して安
に就く。宜しく高臥して労苦を舎て、以て自性を楽
よは けん
むべし。然かも夙に興き夜に寝ね、経籍を研し、生
徒に授くるものは何ぞや。此れ是れ事を好むにあら
● こ
ず、是れ口を糊するにあらず、詩文のためならず、
せいよ
博識のためならず、又た大いに声誉を求めんと欲す
るにあらず、再び世に用られんと欲するにあらず、
● ● ●はん
只だ学んで厭はず、人を誨へて倦まざるの陳迹を扮
あや なか
し得るのみ。世人恠しむ莫れ、又た罪する莫れ。鳴
呼心太虚に帰するの願ひ、則ち誰か之を知らんや、
我れ独り自ら知るのみ。
吾既辞 職而甘 隠、脱 険而就 安、宜 高臥舎 労
苦 、以楽 自性 、然夙興夜寝、研 経籍 、授 生
徒 者、何也、此不 是好 事、不 是糊 口、不 為
詩文 、不 為 博識 、又不 欲 大求 声誉 、不 欲
再用 於世 、只扮 得学而不 厭誨 人不 倦之陳迹
而已、世人莫 恠、又莫 罪、鳴呼、心帰 乎太虚
之願、則誰知 之乎、我独自知焉耳、
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●口糊。くちす
ぎ、生計。
●論語述而篇の
語。
●陳迹。ふるき
あと。
●扮。装ひ、ま
ねる。
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