● かう
六一 訟を聴く吾れ猶人のごとしとは周官司寇云ふ所
● ごくしよう
の五声なり。之を以て獄訟を聴き、民情を求むるは、
まこと
聖人官吏の才能ある者と異なるなし。而て情無き者
つく
は其の辞を尽すを得ず、大いに民の志を畏れしむと
かざ
は、民の不仁なる者飾るに仁を以てし、不敬なる者
飾るに敬を以てし、不孝なる者飾るに孝を以てし、
不慈なる者飾るに慈を以てし、不信なる者飾るに信
を以てす、其の余の不善なる者も、各々飾るに善を
し
以てす、而て民の仁者は誣ふるに不仁を以てし、敬
し
者は誣ふるに不敬を以てし、孝者は誣ふるに不孝を
以てし、慈者は誣ふるに不慈を以てし、信者は誣ふ
るに不信を以てす、其余の善なる者も皆誣ふるに不
しようたん
善を以てす、これ即ち訟端の由つて起る所なり。故
に聖君は意を誠にし、以て仁敬孝慈信の徳を明らか
か
にして民に臨む、譬へば明鏡を懸けて物の来るに応
●けんち ●のが
ずる如し。物の妍安んぞ其の照を迯れんや。故に
かん きよたん
民先づ其心に咸し、訟へて以て其の虚誕の辞を尽す
を得ず、大いに其の心志を畏れしめ、而て恥ありて
●ぐぜい
且つ格し、虞の文王に訟ふるこれ其の証なり。而
て此の如きに至れば、則ち不仁者は改まつて仁と為
り、不敬者は改まつて敬と為り、不孝不慈者は改ま
つて孝慈と為り、不信者は改まつて信と為る。而て
仁者は之を誣ひず、敬者は之を誣ひず、孝慈者は之
を誣ひず、信者は之を誣ひず、而て仁化下に興る。
これ豈聖君誠意の效にあらざらんや、決して官吏の
●せいちへい
及ぶ所にあらざるなり。是の故に斉治平と雖も、皆
誠意を以て本と為す。故に大学に上文数節を結び、
かさ
重ねて曰く、これ本知ると謂ふと、其の旨深いかな。
● しやく せきせん ばく
而て本末を釈すと謂ふ、昔賢既に之を駁せり。其の
ぜ
言是なり。
聴訟吾猶人也者、周官司寇所云、五声、以之
聴獄訟、求民情、聖人与官吏之有才能者無
異矣、而無情者、不得尽其辞、大畏民志者、
民之不仁者飾以仁、不敬着飾以敬、不孝者飾以
孝、不慈者飾以慈、不信者飾以信、其余不善也
者、各飾以善、而民之仁者誣以不仁、敬者誣以
不敬、孝者誣以不孝、慈者誣以不慈、信者誣
以不信、其余善也者、皆誣以不善、此即訟端
之所由起也、故聖君誠意、以明仁敬孝慈信之
徳而臨民焉、譬如懸明鏡応物来、物研安
迯其照、故民先咸其心、不得訟以尽其虚誕
之辞、令大畏其心志、而有恥且格、虞之訟
於文王、是其証也、而至如此則不仁者改為仁、
不敬者改為敬、不孝不慈者改為孝慈、不信者
改為信、而仁者不誣之、敬者不誣之、孝慈者
不誣之、信者不誣之、而仁化興於下、此豈
非聖君誠意之效乎、決非官吏所及也、是故雖
斉治平、皆以誠意為本、故大学結上文数節、
重曰此謂知本、其旨探矣哉、而謂釈本末、昔
賢既駁之、其言是也、
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●論語及び大学
に見ゆ。
●五声。周礼秋
官小司寇の職に
五声を以て獄訟
を聴く、一に曰
く色聴、二に曰
く辞聴、三に曰
く気聴、四に曰
く耳聴、五に曰
く目聴とあり。
●研。美と醜。
●迯。逃に同じ。
●虞。二国田
を争うて文王に
訟へ、周の美風
に感じて取止め
しこと、史記に
見ゆ。
●斉治平。家を
斉へ、国を治め、
天下を平かにす
る。
●本末を釈。此
は朱子が改訂せ
る大学を指す、
本書は古本大学
に拠る。
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