人 し
七七 或問ふ、子一日を以て一年と為すの義如何と、
われ われ
予笑うて答へず。再三請ふ。因つて曰く、予他術あ
●ねうし
るにあらざるなり。只だ日の子丑を以て実に仲冬季
●とらうたつ
冬の時と為し、寅卯辰を以て実に孟春仲春季春の時
●みうまひつじ
と為し、巳午未を以て実に孟夏仲夏季夏の時と為し、
●さるとりいぬ ●ゐ
申酉戌を以て実に孟秋仲秋季秋の時と為し、而て亥
ご び
を以て実に初冬の時と為す。而て寤寐常に吾が性を
しばらく
見る。仁義礼智の妙は天運と一箇にして、更に須臾
かんだん
の間断もあらざるなり。もし一も間断あらば、則ち
禽にして人にあらず、死にして生にあらず。是の故
●させつ
に良知を致して以て省察修治す、則ち起臥より瑣屑
そむ
の事に至るまで、仁義礼智に叛きて之を行ふ能はざ
くふう
るなり。工夫是に於てすれば、則ち一日を以て一年
と為すも猶未だし、百年と為すと雖も可なり。故に
一日の光陰を送る、豈亦た容易ならんや。予再三の
や と ろ
請に因て、已むを得ず以て之を吐露するなり。冀く
●きようだい
は吾が言を以て衿大とする勿れ。
或問、子以 一日 為 一年 之義、如何、予笑而不
答、再三請、困曰、予非 有 他術 也、只日以 子
丑 実為 仲冬季冬之時 、以 寅卯辰 実為 孟春仲
春季春之時 、以 巳午未 実為 孟夏仲夏季夏之時 、
以 申酉戌 実為 孟秋仲秋季秋之時 、而以 亥実
為 初冬之時 、而寤寐常見 吾性 、仁義礼智之妙、
与 天運 一箇、更不 有 須臾之間断 也、如一有
間断 、則禽而非 人、死而非 生、是故致 良知 以
省察修治、則起臥至 瑣屑之事 、不 能 叛 仁義礼
智 而行 之也、工夫於 是、則以 一日 為 一年 猶
未矣、雖 為 百年 可也、故送 一日之光陰 、豈亦
容易也哉、予因 再三之請 、不 得 已以吐 露之
也、冀以 吾言 勿 衿大 矣、
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●子丑。夜半よ
り四時に至る。
●寅卯辰。暁四
時より午前八時
に至る。
●巳午未。午前
十時より午後二
時に至る。
●申酉戌、午後
四時より八時に
至る。
●亥。午後十時。
●瑣屑。こまか
しき事。
●衿大。衿は、
ほこる、大げさ
といふ如し。
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