人 ●
八八 或問ふ、子産の孔子に於ける、仁智如何と。曰
く、仁は固より及ばず、而て智も亦た及ばざるなり。
請ふ之を論ずるに小を以てし大を以てせざらん。子
●かうじん みだり
産校人をして生魚を池に畜はしむ。これ妄に殺すを
ちか
欲せずして之を水に放たしむるなり、仁に庶し。而
に ●ぎよ\/
て人之を烹て、反命して曰く、圉圉たり、洋洋たり、
いう ゆ ●きまう
攸然として逝けりと。子産之を信ず、これ欺罔の別
ありと雖も、果して智か、抑々不智か。孔子の 畜
狗死するや、之を埋むるに席を以てし、首をして陥
ぼくれい
らしむる毋らしめたるは仁なり。其の僕隷を使はず
して、高弟端木氏を使へるは智なり。僕隷を使はば、
しれい
則ち未だ孔子の指令の如く首をして陥らしむる毋か
りしかを知るべからざるなり。もし首をして陥らし
た
めば、則ち但だ不智なるのみにあらず、其の仁も亦
し ●しう
た之が為に失はれん。子の小事に於ける、自然に周
ち も かく
致にして漏らさざること猶此のごとし。是れ聖人の
聖人たる所以にして而て子産の及ぶ所にあらざるな
り。而て子産安んぞ仁智を尽すを得んや。もし亦た
うらみ
仁智を尽して憾無くば、便ち是れ亦た聖なり。特に
子産のみにあらざるなり。
或問、子産之於孔子、仁智如何、曰、仁固不
及、而智亦不及也、請論之以小不以大、子産
使校人畜生魚池、此不欲妄殺而放之水也、
庶乎仁、而校人烹之、反命曰、圉圉焉、洋洋焉、
攸然而逝、子産信之、此雖有欺罔之別、果智
乎、抑不智乎、孔子之畜狗死、埋之以席、毋令
首陥焉仁也、其不使僕隷、而使高弟端木氏智
也、使僕隷、則未可知如孔子之指令毋令
首陥也、如令首陥、則非但不智、其仁亦為之
失矣、子之於小事、自然周致不漏猶如此、是聖
人之所以為聖人、而非子産之所及也、而子産
安得尽仁智也哉、如亦尽仁智而無憾、便是亦
聖矣、非特子産而已也、
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●子産。鄭の名
相、孔子屡々之
を賞揚す。
●校人云々。此
の事、孟子万章
上篇に見ゆ。校
人は小吏。
●圉々云々。圉
々は苦しみて自
由にならぬ貌、
洋々はのび\/
とする、攸然は
悠然。
●欺罔。欺は単
にあざむく、罔
は道理なきこと
をおしつけてだ
ます。
●周致漏らさず。
周到緻密にして、
手ぬかりのない
こと。
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