九二 学者心性の理を明らかにし、天人の義を知ると
●ぎらい さうふく ●ぼく でん
云ふと雖も、然れども儀礼の喪服及び卜氏の伝に精
通せざれば、則ち人倫の差等微の処に於て、分暁
明白なること能はず。もし分暁明白ならざれば、則
●し き
ち其の行事も未だ妄行恣空と俗とに陥るを免れざ
そむ
るなり。これ聖教に背くを知らずして自ら之に背く。
故に礼は講究せざるべからざるなり。然れども徒に
講究して経伝に精通すと雖も、心性の理を明らかに
し、天人の義を知らざれば、則ち是れ乃ち無源の学
●しやうくくんこ らう
にして、而て章句訓詁の陋に終らん、是れ亦た先聖
へん
の教にあらざるなり。要するに一に偏することは不
あゝ ●ゑん はう
可なり。吁、聖教は円にして方、方にして円なり、
たんたう むべ
志無くんば則ち担当し難しと。亦た宜ならずや。
学者雖明心性之理、知天人之義云、然不精
通於儀礼喪服、及卜氏之伝、則於人倫之差等微
処、不能分暁明白、如不分暁明白、則其
行事未免妄行恣陥空与俗也、是不知背于
聖教而自背之、故礼不可不講究也、然徒講
究而雖精通於経伝、不明心性之理、知天人
之義、則是乃無源之学、而終乎章句訓詁之陋
焉、是亦非先聖教也、要偏于一不可矣、吁、
聖教円而方、方而円、無志則難担当、不亦宜
乎、
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●儀礼喪服。儀
礼は礼記・周礼
と併せて三礼と
称す、喪服篇あ
り。
●卜氏の伝。喪
服篇に伝あり、
ト子夏の作と称
せらる。
●恣。気儘、
勝手。
●章句訓詁。書
物読み文字調べ
ること。
●円にして方。
円通とは心性天
人の方面を云ひ、
方正とは儀礼の
方面を云ふ。
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