山田準『洗心洞箚記』(本文)84 Я[大塩の乱 資料館]Я
2009.10.22

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『洗心洞箚記』 (本文)

その84

山田 準訳註

岩波書店 1940 より



◇禁転載◇

上 巻訳者註

    ふん  く    一〇七 忿と懼とは、庸常免れざる所。而て忿は剛に                       れう  属し、懼は弱に属す、皆病なり。病なれば則ち療せ             しんたく        しん  ざるべからざるなり。王震沢先生怒りを治むる箴に      しか どうたう         い  をか    せい  曰く、「若く憧するあり、或は吾が意を干す、盛   きかくえん         さか             やぶ  気赫炎、火の斯に熾んなる如し。熾んにして物を傷             や           あやま  らずば、乃ち先づ自ら燔く、既に事を愆り、亦た身   わざはひ            あた  なんぢなん  にす。其の怒時に方り、爾盍ぞ自ら思はざる、彼            なん  せ            ひ  れそれ是か、我が怒りは奚ぞ為ん。彼れ且つ非か、    じよ         や         おのれ  之を恕すれば則ち已む、恕して怒らず、己に留らず。        しくわ  そゝ           そゝ  譬へば彼の熾火、沃ぐに清泉を以てす、之に沃ぎ之                けん  に沃げば、火は乃ち然えず。明鏡懸に在り、其の中 たんじやく      うつ        湛若、是れを遷らずと謂ふ、顔氏の学なり、」人こ                い      ちか        く  れを以て怒りを療せば、則ち愈ゆるに庶し。其の懼      しん       を治むる箴に曰く、「赫として上に在るあり、或は     かたはら      くわいらん      わ  臨んて旁に在り、中乃ち乱すれば、沸きて湯の如                      げんぼう  きものあり。沸きて自ら知る莫ければ、倉皇眩す、         な          な     お          く  心既に定まる靡し、身且つ奚んぞ措かん。其の懼時        なん  に方りて、爾盍ぞ自ら定らざる、吾れに在つては唯  だ理、天に在つては唯だ命。理これ正しければ、守  つて且つ他ある勿れ、命これ定まれり、死すと雖も               ふつたう  てん  而も何ぞ。譬へば彼の寒泉、沸湯に点す、之に点し                      しん  之に点せば、沸乃ち揚らず。刀鋸前に在り、震せず しよう             竦せず、是れを不動と謂ふ、孟軻の勇なり、」と、                 い      ちか  人これを以て懼を療せば、則ち愈ゆるに庶し。真に  愈ゆれば則ち心虚に帰す。心虚に帰すれば、則ち怒                        あた  りと懼と雖も、亦た天理なり。謂ゆる発して節に中  る者なり。これ則ち無かるべからざるなり。   忿与懼、庸常所免、而忿属剛、懼属弱、皆   病也、病也則不療也、王震沢先生治怒箴   曰、「有若憧、或干吾意、盛気赫炎、如火   斯熾、熾不物、乃先自燔、既愆於事、亦   於身、方其怒時、爾盍自思、彼其是耶、我怒   奚為、彼且非耶、恕之則已、恕而不怒、弗   於己、譬彼熾火、沃以清泉、沃之、沃之、火   乃不然、明鏡在懸、其中湛若、是謂遷、顔   氏之学、」人以此療怒、則庶乎愈焉、其治懼   箴曰、「有赫在上、或臨在旁、中乃乱 、有   沸如湯、沸莫自知、倉皇眩、心既靡定、身   且奚措、方其懼時、爾盍自定、在吾唯理、在   天唯命、理之正矣、守且勿他、命之定矣、雖死   而何、譬彼寒泉、点於沸湯、点之点之、沸乃   不揚、刀鋸在前、不震不竦、是謂不動、孟   軻乏勇、」人以此療懼、則庶乎癒焉、真愈則   心帰乎虚、雖心帰乎虚、則怒与懼、亦天理   也矣、所謂発而中節者也、此則不無也、



庸常。普通の
人。
王震沢。明の
学者王字は済
之、弘治中講官
となり、博学文
章に長ず。此の
二箴は、王文恪
集に出づ、毎句
四字の韻文とす。
。事物が
来つて突きあた
る。「若く」は
意義なし。


恕。ゆるす。


然。燃に同じ。

懸。明鏡が高
くつるされて居
るの意、心に喩
ふ。
湛若。静かに
澄む。
顔氏の学。孔
子顔淵を称して
怒を遷さずとい
ふ、論語雍也篇
に見ゆ。
赫云々、天帝
赫々として我が
上に在り、或は
我が傍に在り。
乱。心中暗
く乱れる。
倉皇云々。う
ろたへ、くらむ。



沸湯云々。冷
水を沸湯に注ぐ。

刀鋸。刑罰の
器。

孟軻の勇。孟
子四十にして心
を動かさゞるこ
と、孟子浩然之
気の章に出づ。


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